エネルギーミックスで電力の安定供給を図れ――井伊重之(産経新聞論説副委員長)【佐藤優の頂上対決】

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日本の歩むべき道

井伊 エネルギーはやっぱり魑魅魍魎の世界で、ロシアからのガスが止まって一番得するのは誰かを考えると、OPEC(石油輸出国機構)諸国もそうですが、アメリカなんですね。世界最大の天然ガス産出国ですから。

佐藤 シェールガスがあります。

井伊 だからアメリカはけんかのやり方をほんとうによく知っていると思います。それに比べ欧米に追随するだけの日本はナイーブすぎる。

佐藤 もっとも日本はサハリン1、2からの資源輸入を止めていませんし、石油価格の上限設定からも除外されています。ちなみに広島ガスのLNGは、半分がサハリン2からの長期計画での輸入です。

井伊 岸田総理の地元ですね。

佐藤 だから岸田政権はアメリカや他のG7諸国と同じくロシアに厳しく当たる一方で、巧妙に立ち回っているのかもしれない。

井伊 それが戦略的であればいいのですが、どうもサハリンには目をつぶってほしいみたいな感じなんですね。だから二枚舌がどこまで通用するか心配です。もっともここは日本の独自性を発揮して国際交渉するチャンスだとも思います。いまは欧米について行っているだけですから。

佐藤 確かに安倍元首相や菅前首相だったら、現状を逆手に取った外交ができそうですね。

井伊 温暖化対策も欧米主導になっていますが、2000年代初頭からの世界のCO2排出量を見ると、先進国に対して新興国が2倍以上になっているんですね。先進国はなだらかに減っている一方、新興国は伸び続けている。

佐藤 問題は中国とインドです。

井伊 ええ、それらの新興国をどうにかしないと地球温暖化防止にはならない。それなのに、先進国は自分の庭先だけ何とかしようとしている。

佐藤 それで日本がやり玉に挙げられたりしています。

井伊 実は日本には優れた火力発電の技術があるんです。

佐藤 CO2を極力出さないように作られた石炭火力ですね。

井伊 はい。それを中国やインド、新興国に供与して、彼らが出すCO2を減らす方が、よほど温暖化防止に効果的です。地球のためにも、日本のためにもなるのに、いざ石炭火力を輸出するとなると、「石炭はけしからん」と言う政治家が出てくる。これを広めれば、新興国を巻き込んで日本の独自性が発揮できるいい機会になると思うのですが。

佐藤 私は次世代の技術としては「核融合」に期待を寄せているのですが、井伊さんはどうご覧になっていますか。

井伊 日本は要素技術を持っていますから、それなりに力を発揮できると思います。ただ日本では新しいものは公的機関が主導する形になるんです。アメリカなどはベンチャー企業がどんどん出てきて、民間からお金を引っ張って、自分たちで開発しています。

佐藤 それらとは競争にならない。

井伊 ええ、国が予算を立てて、とやっていると、開発のスピードがまるで違います。

佐藤 核融合は原理的に兵器転用できません。ですから本来はもっと国際協力をすればいいと思うのです。

井伊 核融合実験炉を建設・運用する「イーター」という国際共同プロジェクトがあり、EU、アメリカ、韓国、中国、ロシア、インドとともに日本も参加しています。ですが、アメリカやEUから離脱したイギリスは別なやり方で進めています。日本も独自にお金をつけてやればいいのですが、3・11以降、核と名の付くものは何もかもブレーキが掛かっていますから、なかなか進まない。

佐藤 核融合の名称を変えたらいいのではないですか。

井伊 そうかもしれない。例えば「プラズマ発電」はどうでしょう。現象としてはプラズマ反応ですから。あるいは「水素発電」とか。

佐藤 いいですね。「核」とあるだけで拒否反応を示す人がいますから。

井伊 エネルギー問題はよくも悪くも現実です。イデオロギーや政治信条で判断すべきものではない。脱炭素や温暖化に目を向けつつも、きちんと足元を見て考えていくことが、いま求められていると思いますね。

井伊重之(いいしげゆき) 産経新聞論説副委員長
1962年生まれ。産経新聞グループに入社し、経済部で経済産業省、外務省、国土交通省、財務省などの官庁のほか、自動車、電機、鉄鋼、化学、エネルギーなどの業界を担当。経済部次長、副編集長を経て、2009年より論説委員。22年より現職。政府の税制調査会、産業構造審議会、社会資本整備審議会などの委員も務める。

週刊新潮 2023年3月2日号掲載

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