エネルギーミックスで電力の安定供給を図れ――井伊重之(産経新聞論説副委員長)【佐藤優の頂上対決】

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原発のこれから

佐藤 岸田政権は、昨年のGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議で、原発を「GXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」と位置付け、その再稼働を進め、建て替えも行う方針を打ち出しました。

井伊 ようやく、という感じですね。いま日本には33基の原発があります。稼働しているのは10基で、稼働中の原発がある関西電力と九州電力は、今回、値上げ申請をしていません。つまりそれだけ供給力と競争力があるということです。

佐藤 他に原子力規制委員会の審査に合格している原発もありますね。

井伊 7基あります。それを順次再稼働させていこうというのが岸田政権の考えです。さらに最長60年と定められている運転期間から安全審査期間を除外することにしました。新増設や建て替えには多額の費用がかかりますから、効率的な手法といえます。

佐藤 これで電力供給は安定するのですか。

井伊 もちろん原発は動かしたほうが合理的ですが、現在の電力自由化の制度設計のままなら、原発を動かせば、その分だけ火力発電所を減らしていくという流れになるでしょうね。

佐藤 そこは変わらない。

井伊 余分な発電所を持たずに効率化するというのが電力自由化の目的ですから。すると、慢性的な電力不足はなかなか解消されない。

佐藤 岸田政権は「革新軽水炉」を作ると言っています。これは何か新しいものなのですか。

井伊 何かたいそうなことを言っているようですが、これまでの原発の延長線上のものです。すでに3・11前には三菱重工が作って関西電力に納める計画が進められていました。

佐藤 本質的な「革新」ではない。

井伊 この十数年間、日本の原発に関する研究開発は止まっていました。その影響は大きいですよ。日本で最後に本格的に建設が進められたのは2008年の青森県の大間原発です。

佐藤 原発に関しては、ヨーロッパでも流れが変わりましたね。

井伊 あのドイツも昨年末までに停止するはずだった原発2基を当面は稼働させることになりました。もともとドイツで脱原発や再エネ中心の政策が立てられたのは、ロシア産の天然ガスがあったからです。ロシアからのパイプライン「ノルドストリーム」を作る際、アメリカや東欧諸国が懸念を示したのですが、ドイツは「あくまで経済的な関係」と言って進めていった。それが現在の事態を招いています。

佐藤 かつて北朝鮮の金日成主席は、ソ連からコメコン(経済相互援助会議)に加盟するよう求められました。その時、バイカル湖の水力発電所からの送電網に入るようにも言われたそうです。だから断った。それで北朝鮮は東欧諸国と違ってソ連崩壊後も生き残ったと、彼は著作集で述べています。つまり、外国の送電に依存しないことが死活的に重要だと言っているわけです。

井伊 それは非常に大切なことですね。

佐藤 私はウクライナ侵攻の山場は今年二つあると考えています。一つは春くらいで、ウクライナの食料不足です。電力インフラを破壊されていますから、電化された鉄道網が機能していない。だから食料不足になり、支援を要請してきます。もう一つは秋で、ドイツのガスです。この冬は比較的暖冬だったのでまだガスはあったのですが、それがなくなる。その時にドイツがどうするかです。ロシアに頼ると、戦いは長引き、10年戦争になると見ています。

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