【袴田事件】再審請求の審理終了、西嶋弁護団長が心境を語る「裁判官は腹を括ってくれるかもしれませんが…」

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不自然なことだらけ

――報道では全く出てこないことですが、巖さんが無実となると別に真犯人がいるはずです。

西嶋:これについては推測の域を出ず、我々がどうこう言えるものではない。小川(秀世)弁護士などは色々とストーリーを持っているようだけど。事件直後に旅行から帰宅した長女が関わっていたなどの説もあるが、それは考えにくいですね。第三者が関わっていたことは明白です。直前まで専務宅に客人がいた。取引先なのか、専務の個人的な客なのか。殺し方から見ても、怨恨や敵対関係にあった者の仕業と見るのが自然です。金品はほとんど盗られていない。窃盗が目的ではない。

 それにしても、検察が作った、殺して出て行ったあと現場に戻ってきて、また裏木戸から入ってガソリンを撒いたり、何度も往復したなどの荒唐無稽なストーリーに、どうして裁判官が乗ってしまったのか。証拠開示された静岡県警の取り調べの録音テープを聞いても、警察が作ったストーリーを巖さんに言わせていることは明白です。

――「自白した」という肝心なところだけ録音がないですよね。

西嶋:そうなんですよ。

――検察や警察が悪辣なことをしても、裁判所がしっかりしていれば巖さんはあんなことにならなかったはずです。

西嶋:一審の静岡地裁の合議体で熊本(典道)さん(当時の主任裁判官)だけは抵抗したんだけど、結局は付言で捜査批判をすることで妥協してしまった。「有罪判決文など書けません」と拒否すれば合議は成立しないのだから。熊本さんはは東京高裁の控訴審でひっくり返ることを期待したと言われているが甘かった。

 突然、犯行着衣が変えられるなど、不自然なことだらけ。血痕もDNA鑑定をするまでもなく、普通に見れば赤いままの血痕を見ただけでも後から放り込んだものだとすぐわかる。有罪判決なんか書けるはずもないんです。有罪とすれば4人も殺しているのだから死刑以外ありえない。恐ろしいことです。巖さんが常識では考えられない不自然な行動を取っていた、ということにしなければ有罪認定など成り立たなかったのに。

――古い記録を見ていると、当初、巖さんのアリバイを話していた同僚の従業員らの証言がなぜか消えてゆきます。

西嶋:再審請求後に開示された捜査記録からは、一緒に消火活動もしていたような証言が色々と出てきている。それなのに確定判決は、一緒に消火活動などしていないようにされていた。警察や検察は、巖さんのアリバイを示す証言を隠していたのです。巖さんは清水ではなくて浜松の人だったし、事件が起きた時はこがね味噌に就職してからさほど時間が経っていなかった。同僚の中でもちょっとよそ者の印象もあったことも影響したでしょう。彼は味噌工場の職人だったのだから、味噌タンクは味噌を入れ替えたり洗ったりするのだから、すぐに見つかってしまうことくらいわかる。そんなところに隠すはずもない。

――「5点の衣類」のズボンのサイズが合っておらず、控訴審の東京高裁で実験までしましたが、巖さんの腿までしか上がりませんでした。

西嶋:それを裁判所は、「味噌に漬かって縮んだ」とか「袴田さんが太った」とか屁理屈をつけて有罪にしている。相当杜撰な捏造だったはずなのに、裁判所が加担したと言ってもいいのです。大体、殺人の犯行の真っ最中にパジャマからズボンに穿き替えたなんて、そんなおかしな話はないでしょ。

 控訴審で巖さんを有罪にした横川(敏雄)さんは、後に裁判官のための教科書のような本を団藤重光さん(東京大学法学部長や最高裁判事などを歴任。現在の刑事訴訟法の立案者の一人。死刑廃止論者だった)と一緒に本も出している。横川さんはどこまで団藤さんに同調したのかわからないけど。

「ロス疑惑」で驚いた米国の接見交通権

 西嶋弁護団長は弘中惇一郎弁護士とは竜谷大学の司法修習生を一緒に引き受けているので、よく知っている仲だそうだ。弘中弁護士は厚労省の郵便不正事件で村木厚子氏の主任弁護人を務め冤罪を晴らし、最近ではカルロス・ゴーン氏の弁護人を務め、「無罪請負人」とも呼ばれる。

「司法修習生を引受けている弁護士と大学の関係者の会議中に、彼が弁護していたロス疑惑事件の三浦和義さん本人がグアムの拘置所から弘中さんに電話してきたので仰天した。アメリカではこんなことができるんだとびっくりしてしまい、日本の接見交通権を何とかしなくてはと思いましたね」

 西嶋弁護団長は間質性肺炎を患い、酸素ボンベが手放せない。「肺に酸素が十分に行かなくて苦しくなることがある。火の気が危ないから、妻を亡くしているのに台所にも立てないんだよ」と言う。車椅子の老弁護士の執念は、まもなく実るはずだ。

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