“拘禁症”残る袴田巖さんと3人の裁判官が異例の面会 姉のひで子さんは「わかったふりをして…」

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検察実験への疑問

 小川弁護士が今回行われている裁判(即時抗告審)をわかりやすく説明した。

「即時抗告審は、再審開始決定が正しいかどうかの議論の場。今までの裁判のうち(再審開始決定の)静岡地裁以外は、『5点の衣類』が発見の直前に味噌タンクに入れられた可能性はないとしてきた。ところが最高裁は、発見直前か事件直後かはっきりさせなさいと言っている。今までの裁判所が『発見直前はあり得ない』としていたのは間違っていたとして差し戻している。確定判決が間違っているという認定から出発しており、事件直後に(タンクに)入れたと確信を持って言えるのかを命題にしたことが重要で、一般的な再審事件の認定とは違う構図です」

 検察実験について笹森学弁護士は、「味噌を真空パックに詰めて、おまけに脱酸素剤まで入れている。これでは瞬間的に窒息させるようなもの。味噌樽(タンク)とは全く条件が違う」と指摘する。

「5点の衣類」の発見時、味噌タンクには80キロから160キロの味噌が入っていたが、村崎弁護士は「(実際の)味噌タンクの味噌が真空になるなんてありえない」などと話していた。

 検察の意見書では「4カ月、5カ月後の血痕に赤みが残った」「血液の量が多い血痕は、全体に化学反応が起こる前に、時間の経過に伴い、凝固、乾燥などで化学反応が起こりにくくなり、赤みが残りやすくなった」としたが、実際の味噌タンクの条件とはかけ離れているのだ。

 さらに、「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫代表)の山崎俊樹事務局長の積年の実験では、漬けるのが白味噌であっても1カ月で血液は黒ずんだ。

 山崎事務局長は「検察は味噌製造に使われたのは井戸水の可能性があると、肥料や動物の糞尿に含まれる硝酸態窒素を入れた疑似井戸水を使って味噌を作った。しかし、この化学物質は硝酸塩という食品添加物としてハムなどを赤く見せるために使われるもの」と、赤みを残す意図で実験した可能性があることを指摘する。

 2022年7月末から8月初めにかけて高裁が弁護側と検察側から法医学者と化学者を証人尋問していたが、弁護側と違い検察側の学者は自ら実験もしていない。

「検察は最終的に11月1日に(味噌の容器を)空け、色調の変化を記録した。その際、一番赤みが残りやすい条件にしても赤みが消えていた。裁判所も十分、再審開始しなくてはいけないと理解してくれたはずである。検察の最終意見書はこちらの実験がおかしいとかばかり言っているだけで、勝負はあった」と小川弁護士。

 西嶋弁護団長は「裁判官は検察実験を見ている。赤みが残っている印象はなかったでしょう。検察がいくら言っても勝負にならんと思う」と話した。そして「検察官が(再審決定取り消しを行った)大島決定で(巖さんの)身柄を拘束しないのはおかしいとして、再収監すべきだと恥もなく主張している」と怒りを込めた。81歳の西嶋氏の弁護士登録は、なんと1965年。「袴田事件」が起きる前年である。現在は間質性肺炎を患い、酸素ボンベを手に車椅子で裁判所に駆けつけている。

他人のDNAが付着?

 争点は血痕の色だけでない。

 2018年6月、検察の特別抗告を受けた東京高裁(大島隆明裁判長)が再審開始決定を取り消した際、大島裁判長は「5点の衣類」の血痕のDNA鑑定について、静岡地裁が再審開始の論拠とした「袴田さんと別人のDNAが検出された」という筑波大学の本田克也教授の鑑定を「鑑定手法に誤りがある」とした。

 最終意見書を提出した際の会見で角替弁護士は、衣類の血痕のDNAについての弁護団側鑑定の信頼度を訴えた。さらに「再審開始決定が正しいかどうかを審理する場なのでDNAも他の要因も審理対象になる」と説明した。

 このことについて小川弁護士は、

「DNAについても新証拠は提出していないが、大島決定は判断が間違っており、そのことが最高裁にも理解してもらえなかったので(意見書で)かなりページを割き、説明しました」

 さらに、「最高裁は(血痕以外の)何かおかしなものを(試料として)拾った可能性がある、どこに由来するかわからないものが現れているように言っている。本田さんの鑑定はキットも適正な使い方をしているのに、コンタミ(汚れなど)を拾ったとか言っている。はっきりした理由を述べずにそんな結論を出しているのが間違いだと説明できた」とした。

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