「板を長くしてジャッジにアピール」「投資や起業も視野に」 モーグル銅・堀島行真の革新性とは(小林信也)

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 堀島行真が注目を集めたのは2017年、フリースタイルスキー世界選手権の男子モーグルで優勝してからだ。当時19歳。堀島は“絶対王者”キングズベリー(カナダ)を圧倒し頂点に立った。若きヒーローは一躍、翌18年平昌五輪の金メダル候補となった。

 私はこの頃、堀島のインタビュー映像を見て静かな衝撃を覚えた。闘志が先走る単一思考的アスリートが多い中、堀島の言葉には内面的な広がりと豊かさが感じられた。その時から堀島の存在が気になっていた。

 ところが、平昌で堀島は挫折を経験する。予選は勝ち抜いたものの決勝2回目の途中で転倒し、棄権。11位に終わった。期待が失望に変わり、堀島自身、失意の底に沈んだ。しかし、

「平昌五輪が僕の覚醒の時だったかもしれない」

 真剣な顔で堀島は言う。

「14年ソチ五輪の後はひたすら世界一を目指して練習を重ねた。そして3年3カ月で結果が出た。だから、そのやり方が正解だと思ってしまった。世界選手権に優勝した後も猛練習で強さを求めた結果、平昌五輪の半年前に心身ともに疲れ切って、足が止まった」

 それでも闘志を振り絞り、平昌五輪直前のW杯では優勝を飾った。その成績を見て、周囲がいっそう金メダルを期待したのは当然だ。けれど、堀島の中にはネガティブな予感ばかりが広がっていた。

「世界選手権で優勝するまでの『上だけ見ていた自分』はよかった。優勝して、過去の自分(優勝した結果)ばかりを追いかける自分には勢いがなくなっていた」

 さりげなく、核心をつく発見を口にした。日本のアスリートからその発想を聞かされるのはまれだ。多くの選手はスランプになれば、好調時の映像を見て手がかりを探す。そこに答えはないと気付かない選手や指導者が大半だ。“フィードバック”が重要だと一般社会でもいわれる。だが、スポーツ界で過去の成功例を追い求めても改善しない。真の勝利者は、“フィードフォワード”、未来にどう対応するか以外に勝利の近道はないと、体感的に気付いている。堀島もまたその真理を、平昌の敗戦からつかんだ。

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