ガストは100店閉鎖の苦境 低価格だけではないサイゼリヤに敗れた本当の理由

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選ぶ楽しさ

 何でもあるガストは便利だが、消費者は「どうしてもガストに行きたい」とは思わない。一方のサイゼリヤは、「パスタを食べたいからサイゼリヤに行こう」と思わせることに成功している。

「サイゼリヤのほうが選択の自由度が高いことも重要です。ガストでハンバーグのセットメニューを注文すると、ご飯かパンかを選ぶことになります。選択肢があるとはいえ、二択に過ぎません。一方のサイゼリヤは、メニューの中から自由に数品を選ぶのが普通です。これによって、来店客に“楽しい”と思わせることに成功しているのです」(同・千葉氏)

 サイゼリヤの場合、メインとしてパスタを食べにきた客が、前菜としてムール貝やサラダを注文することはごく普通のことだ。

「サイゼリヤは徹底した低価格路線だけでなく、1皿の量が絶妙な加減なのです。メインと前菜、サラダ、あるいはメインとデザートというように、2〜3皿を頼んでちょうどいい具合になっています。複数の料理を注文しても価格が抑えられているので、財布には優しく、アルコールとの相性も良い。いつでも自分好みのメニューを組み立てることができるので飽きることがないのです」(同・千葉氏)

収まらない逆風

 千葉氏の調査によると、サイゼリヤの平均客単価は704円なのに対し、すかいらーくHDは847円だったという。

「外食産業は客単価の上昇に苦労していますが、この金額は別の文脈に位置づけるべきでしょう。客単価はすかいらーくHDのほうが高いわけですが、これは消費者から『コスパが悪い』と受け止められる危険性があります。一方、サイゼリヤは満足度が高く、なおかつ客単価は安いわけですから、人気なのも頷けます」(同・千葉氏)

 コロナ禍は燻り続け、物価は上昇、賃金は下がっている。外食産業にとってはトリプルパンチと言ってよく、見通しは明るくない。

 しかし、消費者の「多少価格が高くても、良質の商品を提供してほしい」という傾向は当分続く可能性が高いという。

「例えば今、ハワイアンコーヒーとパンケーキがブームになっていますが、客単価は1500円近くになります。それでも行列ができるほどの人気です。ガストは値上げせざるを得ないようですが、これまでと同じ店名のままで、抜本的な“豊かさ”が伴っていない。消費者が値上げを歓迎するとは思えません。当分は“出血を止め、これからの消費者ニーズにかなった業態設計を行う”という経営戦略が採られるのではないでしょうか」(同・千葉氏)

註1:すかいらーくGの「超都心のガストは値上げ」「不採算店100店舗閉鎖」は正解か?(DIAMOND online:8月19日)

註2:外食チェーンの出店再加速を狂わす「2つの障壁」/深刻な「調達難」がコロナ回復シナリオの打撃に(東洋経済ONLINE:9月3日)

デイリー新潮編集部

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