カスハラの7割以上が男性、年代は中高年が大半 コロナ禍で急増した原因は?

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アメリカでは再配達は時間通りにこない

 かつて筆者が暮らしていたアメリカでは、外箱の8つ角すべてがとがった宅配荷物を受け取ったことがほとんどない。日本の郵便局にあたる「USPS」では、指定した通りの日時に再配達がやってきたことも一度もなく、毎度最寄りの郵便局に向かっては、長蛇の列に1時間以上並び、気だるそうに働く局員に対峙。「再配達が来なかった」と訴えても「私の仕事ではない」「あなたが当日留守にしてたからでしょ」と返ってくるだけだった。

 戸建ての場合、玄関前に野ざらしのまま放置されることも少なくない中、荷物に玄関マットや、玄関に敷き詰められた砂利を被せていく配達員は、「雨にぬれずに済んだ」「盗まれずに済んだ」と感謝すらされる。

 こうしたスタッフ対応の差は宅配業に限ったことではない。日本にある某ファストフード店において「スマイルが0円」なのは有名な話だが、同店発祥の地であるアメリカの店員に「スマイル」を注文したところ、笑顔どころかそれまで以上に眉間にしわが寄った顔が返ってくる結果に。

「それでも強要するなら、チップを求める」

 しかし、こうした対応についてアメリカ人の友人らは「注文したものが手に入ればそれでいいじゃないか」と口をそろえる。

「自分が店員だったとしても、客の前で終始笑顔でいろとか、段ボールを傷つけるなとか言われたら仕事にならない。それでも強要するなら、チップを求めるね。どんなサービスでも無料なものなんてないよ」

 かくも大きい彼我の差。日本がいかに特異な環境にあるのかがよくわかる。

 当世はやりの「働き方改革」の主軸は、長時間労働の是正にあるが、現場からは「長時間労働という体力的な負担よりも、パワハラ、カスハラといった精神的負担のほうがキツい」という声が聞こえてくる。

「お客様は神様です」。

 しかし、神様の中には風変りな神もいる……。ゆがんだ「上から目線」で店員に一方的に負担を強いる客は、もはやただの「疫病神」。当たり前に受け入れられてきた「お客様中心主義」について、今一歩引いて考え直してみるべき時が近づいているのかもしれない。

橋本愛喜(はしもとあいき)
ライター。大阪府出身。大学卒業間際、父の病をきっかけに実家の金型研磨工場を引き継ぐ。大型自動車1種免許取得後、トラックで200社以上の製造業の現場へ。日本語教師を務めた後、NYに拠点を移し、報道の現場に身を置く。現在は、ブルーカラーの人権・労働に関する問題などを各媒体に執筆中。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。

週刊新潮 2022年9月8日号掲載

特別読物「コロナとSNSでクレーマー被害続出 お・も・て・な・し 『お客様中心主義』が招く『カスハラ』という病理」より

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