「プーチンの頭脳」の娘を爆殺したのは誰か ロシア反体制勢力説、ウクライナ女性説…入り乱れる報道の真贋

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真相は“藪の中”

 こうなると、どの発表を信じればいいのか分からなくなってくる。

 極端な言論統制を敷いている以上、ロシアの「実行犯は女性」という報道は疑わざるを得ない。

 一方、ウクライナも「完全に無関係」と言えるのかどうかは分からない。少なくとも動機は充分にある。しかしながら、ロシアの侵攻に反撃するだけで手一杯という印象も強い。

 NRAに至っては、“反プーチン”でテロ行為も辞さない過激な組織が、急に登場するというのも不自然だ。全国紙が報道に消極姿勢なのも理解できる──。

 おまけに「ロシアの自作自演説」に触れたメディアさえある。まさに芥川龍之介の短編小説「藪の中」を彷彿とさせる状況なのだ。そこで筑波大学名誉教授でロシア政治が専門の中村逸郎氏に分析を依頼した。

「ロシアの専門家は、8月24日がウクライナの独立記念日ということで、何か起きるのではないかと警戒していました。そこに爆殺の一報が飛び込んできたわけです。ドゥーギン氏は『ロシアは中央アジア、中国、中東と手を結び、西側国家と対峙、打倒すべき』という過激な主張で知られています」

プーチン大統領の意図

 ドゥーギン氏は“プーチンの頭脳”とか、ロシア帝国を統治していたロマノフ家に取り入った怪僧グリゴリー・ラスプーチン(1869〜1916)をもじって、“ラス・プーチン”と呼ばれていた。

「しかし、プーチン大統領の側近の中では、最も警備が手薄だったはずです。一種の“ソフトターゲット”を狙ったテロだと考えられます。一部の報道を見ると、父親のドゥーギン氏ではなく娘のダリヤ氏が被害にあっても、反プーチンのグループはテロ行為を正当化しているようです。非道なテロリズムが事件の背景にあるからでしょう」(同・中村教授)

 その上で、たった1人の女性が実行犯というのは、にわかには信じがたいという。

「仮に実行犯の女性が特殊部隊の隊員で、テロの特殊訓練を受けていたとしても、1人で爆破を実行したとは考えにくい。実行犯を特定できるだけの情報をロシア側が持っているのなら、複数の容疑者が発表されない限り、にわかには信じられません」(同・中村教授)

 中村氏が注目するポイントは、ロシアのメディアが女性を「アゾフ大隊に所属していたことがある」と報じたことだ。

「プーチン大統領はウクライナ侵攻を『特殊軍事作戦』と表現し、アゾフ大隊の制圧を大義名分にしています。大隊は“ネオナチ”であり、ウクライナに住むロシア語話者を守る必要があるというわけです」(同・中村教授)

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