「寺院消滅」時代をお寺はどう乗り切るか――鵜飼秀徳(正覚寺住職・ジャーナリスト 良いお寺研究会代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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墓地の重要性

佐藤 私は、宗教復興には、きちんと信者からお金をもらうことも大切だと考えています。結局、資本主義社会においては、お金は力にもなるし、欲望にも変わります。だからお金をどれだけ出すかは、非常に重要な問題です。

鵜飼 先日の安倍元首相銃撃事件の背景には、犯人の家庭から世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への巨額の献金がありました。彼らのホームページには、収入の1割の献金を奨励しているとあります。

佐藤 実際の献金額は1億円以上と報じられましたね。でも年収の1割だってキリスト教で出す人はいません。だいたい3~5%程度で、1千万円の年収がある人でも30万~50万円出すのが精一杯という感じです。

鵜飼 仏教だと、0.5%いけばいい方ではないでしょうか。

佐藤 消費税の20分の1ですね。それが今回の事件で、宗教は恐ろしいものと思われ、さらに萎縮してしまうのではないかと心配しています。

鵜飼 27年前のオウム事件が思い出されますね。私は大学生で、毎年夏休みには3週間の修行をしていました。当時は本当に惨めな思いをしました。またヨガ教室などがほとんど消え、仏教全体が萎縮しました。

佐藤 大学の神学部でも入学者が減ったと言っていましたね。

鵜飼 安倍さん自身は、地元の山口県長門市にある浄土宗の寺院の檀家さんです。

佐藤 ああ、だから葬儀が増上寺なんですね。

鵜飼 安倍さんは、法然上人をたたえる国会議員有志の集まり「浄光会」の総会には、世話人としていらっしゃいました。私もそこで何度かお目に掛かっています。

佐藤 ただ政治家と宗教界の関わりは、プラグマティック(実利的)なもので、一般とはかなり違います。

鵜飼 そうですね。私はこれからの仏教を考えるに当たり、非常に大きな位置を占めてくるのは、お墓だと思っています。江戸時代に作られた檀家制度はもう公的には存在していませんし、時代からもズレている部分がある。でもお墓はそこにあり、みんながずっと守ってきたわけです。それが少子高齢化で維持できないなら、維持できる仕組みを考えることが必要です。

佐藤 お墓は、個人が祖先につながっているという感覚を持てる場所で、それは自分が歴史とつながっていることを意識することです。

鵜飼 しかも先祖を思えば、100年、200年という長いスパンで物事を考えることになりますから、想像力にもなります。いまどんどん安易な形で墓じまいが進んでいますが、もうちょっと責任を感じてもらいたいですね。子供に迷惑を掛けたくないと言いますが、掛けてもいい迷惑もあるのではないでしょうか。

佐藤 そこに生まれたからには、儀式を受け継がなければならないという家は、まだまだあります。

鵜飼 そもそもお盆にしても年末年始にしても、大混雑の中で帰省するのは、墓参りのためです。人が故郷に戻ってくる最大の動機が、そこにある。佐藤さんがよくご存じの北方領土のビザなし交流でも、核にあるのは墓参です。

佐藤 ロシアは今回、ビザなし交流を打ち切りましたが、墓参だけは認めています。ロシア人の習俗でも墓参りは非常に重要なんですね。

鵜飼 よく地方創生と言います。それは寺院や神社を抜きにしては語れません。一方、寺院は地域にどんどん開いていくべきです。コロナ禍の下では、門戸を閉めた寺院もありました。でも京都などでは閉じた門の前で手を合わせているおじいさんおばあさんがいたのです。それに中の僧侶は気が付いていない。お寺が誰のものかといえば、地域のものだと思います。

佐藤 教会に限らず、仏教寺院でも幼稚園や保育園を経営しているところがありますね。庭などは園児以外にも開放したり、通り道にすればいいと思いますよ。大勢の子供に開いていけば、記憶に残ります。そうすると戻りたいという気持ちにもなりますし、成功した後、セカンドハウスを故郷に作るような人も出てくる。

鵜飼 それはいいですね。寺院が繁栄を求めてはダメ。大事なのは、ちゃんと低空飛行することです。都市部のお寺では巨大な納骨堂を建てて収益をあげているところもありますが、もう自動搬送式の納骨堂は供給過多になっています。そうした方向ではなく、地域に開き、地域の人が守っていく体制を作っていく。それが今後の寺院の取るべき道だと思いますね。

鵜飼秀徳(うかいひでのり) 正覚寺住職・ジャーナリスト 良いお寺研究会代表理事
1974年、京都市生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞・経済誌記者などを経て、2018年に独立して本格的に著述活動に入る。記者時代に書いた『寺院消滅』は仏教界で反響を呼んだ。現在、実家の浄土宗正覚寺住職の他、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師なども務める。近著に『仏教の大東亜戦争』。

週刊新潮 2022年8月11・18日号掲載

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