「寺院消滅」時代をお寺はどう乗り切るか――鵜飼秀徳(正覚寺住職・ジャーナリスト 良いお寺研究会代表理事)【佐藤優の頂上対決】

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ペット、LGBTQ、DX

佐藤 伝統宗教の継承が難しいのは、後継者の問題だけでなく、現代社会の新しい問題にも対応していかなければならないからです。例えば私は、ペットと入れるお墓を探しているんです。

鵜飼 佐藤さんは猫好きで、実際何匹も飼っていらっしゃいますね。

佐藤 キリスト教では、人間は神が土から作り息を吹き込んで誕生します。つまり人間に特殊性を与えている。だから猫と人間は別の存在で、一緒に墓には入れられない。

鵜飼 なるほど、そこは仏教しか対応できないかもしれない。

佐藤 ただ仏教も檀家にならなくていいというところを探すと、非常に商業主義的なお墓しかないんですね。

鵜飼 私の寺院は、私が住職になってから墓地規約を書き換え、ペットも一緒に入れるようにしました。

佐藤 それは素晴らしいですね。

鵜飼 いま、ペット葬のニーズがすごくある。人間のお墓とぺットの動物霊園を作っている寺院がありますが、人間の方にはお供えものがないのに、動物の方には尾頭付きの鯛やステーキが供えてあって、その前でボロボロ泣いている人がいるんです。お葬式も人間は簡素化されていくのに、ペットはどんどん大きなものになっています。

佐藤 その気持ちはよくわかります。

鵜飼 これが何を反映しているかといえば、距離感なんですね。人間は核家族になり、親子はともかく親族間の距離はどんどん広がっている。ところがペットは、外で飼っていたのが家の中になり、マンションなら当然、同居です。だから普段の生活における距離感が違うんです。

佐藤 そこに宗教は柔軟に対応していく必要があるわけですね。もっともキリスト教では神学的な再整理が必要となり、動物の位置付けを変えなければならない。

鵜飼 変えられるのですか。

佐藤 一部で「動物の権利の神学」という議論も出てきています。ですから可能だとは思います。

鵜飼 仏教の「六道」(衆生がその業(ごう)の結果として輪廻転生する6種の世界)の考え方では、動物は「畜生道」で、人間よりも二つもランクが下になります。だから人間と一緒に埋葬できないという解釈と、阿弥陀様が救ってくれるのだから人間と畜生を区別しなくていいという考え方と、両方あります。浄土宗内では後者の考えを持つ僧侶も多く、柔軟です。

佐藤 創価学会は日蓮の法華経を経典としますが、「六道輪廻」ではなく「十界論(じっかいろん)」を取り、一人の人間が地獄界や畜生界、天界など10の境涯を刹那刹那で循環していると考えます。だから教学的には、人間と動物を分けていません。私が創価学会に興味があるのは、世俗化を推し進めた宗教が、最終的にどういう姿になるかに関心があるからです。彼らは世界宗教化も目指していますが、こうした動物の問題なら、難なく解決できてしまうんですね。

鵜飼 いまペットとともに新しい問題として生じているのは、LGBTQです。日本の仏教では亡くなると戒名をつけますね。浄土真宗以外は男女分けで、男なら居士(こじ)や信士、女なら大姉(たいし)、信女となります。それを戸籍とは違う戒名をつけてほしいと言われると、住職は対応できない。

佐藤 どちらでもないX戒名を作る必要もありますね。

鵜飼 そうです。すると、そもそも戒名とは何なのか、という議論になる。将来的には男女別の戒名でなくなる可能性はありますし、戒名はいらないということになるかもしれません。

佐藤 LGBTQで思い出されるのは、大学時代の工藤成樹(しげき)先生の授業です。京都大学でインド哲学を学び四天王寺女子大学教授になられた方ですが、インド仏教では一人の人間の中に男性的要素と女性的要素がどのくらいあるかだけで、本来、男女の区別はない、生物学的な性と宗教的な性は違うとお話しされていたのを覚えています。

鵜飼 LGBTQ関連では、一緒のお墓に入りたいという要望もあります。これはお寺の問題というよりは、イエの問題になりますが。

佐藤 民法上、家制度はなくなっていますが、お墓に他人が入ることはなかなか許容できない。慣習というものは強いですから。

鵜飼 それからもう一つ、最近の課題には、DX(デジタルトランスフォーメーション)があります。

佐藤 私の通っているプロテスタントの教会は、一昨年のコロナ感染拡大からZoom礼拝になりました。

鵜飼 そうでしたか。

佐藤 でもカトリックと正教会、プロテスタントでもルター派は、それが難しい。キリスト教にはパンとワインを飲み食べし、それがキリストの血と肉に変わるという聖餐と呼ばれる儀式がありますが、それらの宗派ではその場にいないと変化が起きないのです。これがプロテスタントの改革派、会衆派の場合は、象徴であるから家のパンとワインでも構わないということになる。

鵜飼 仏教でもコロナ後にオンライン法事からオンライン葬儀まで出てきたのですが、全日本仏教会の調査では、それらを取り入れているのは全体の3%ほどです。まだまだ檀家さんたちは、お寺に行ってお線香の匂いを嗅ぎ、読経の声を聞き、ろうそくの揺らぎを見たいと考えている。

佐藤 やはり儀式はリアルであることに重要性がある。

鵜飼 逆に檀家さんが求めているのは、お布施の電子決済と、法事などの予約をスマホでできるようにすることです。つまり手続きを簡便にすることだけで、儀式には求めていない。そこを見誤ると、仏教はますます衰退していくと思います。

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