沖縄激戦地で発掘された「存在しない名字のハンコ」 調査の結果明らかになった驚きの真実とは

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専門家に見てもらうと

 謎を解く手がかりを求めて、印章学の研究者、久米雅雄・大阪芸術大学客員教授(74)を訪ねた。教授によると、印章とはハンコのことで、我々が安易に使う印鑑という言葉は、押印された印影を表すらしい。

 目からうろこの知識を、にこやかに教えて下さる久米教授。大阪府教委(現府教育庁)の文化財保護課専門職員として、国宝などの美術工芸品の調査・発掘を行うかたわら、印章研究にたずさわってきた。歴史の教科書で習った「漢委奴国王」の金印などをテーマに、ハンコに関する数多(あまた)の論文や本を執筆し、文学博士号も取得。現在も国内外で活躍する印章学の権威である。

 出土したハンコを手にすると、「小判型で、字体もわかりやすい。庶民的なハンコですね」と一言。大きさを計測すると、軸の長さ5.7センチ、印面は1.2センチ×0.8センチ。材質については、「プラスチックの一種の白ラクトではないかと思ったが、製造過程でできるバリがなく、縦縞に特徴があるので、動物の牙かもしれない」という。

「可能性は十分ある」

 そして肝心の、姓と名からそれぞれ1文字を取ったハンコが存在するか、については、「姓と名の複合体のハンコは、認印レベルでは見たことがない」と断言された。

 しかし、部隊の佐藤姓の多さと、沖縄戦末期に佐藤岩雄さんが発掘場所付近で戦没したという資料を示すと、教授は「うぅーん」とうなり、腕を組んで天井を仰いだ。

 そして熟考の末、「ハンコ屋さんの業界団体があるから、そこにも聞いてみたら」と、全日本印章業協会の福島恵一会長(48)を紹介して下さった。

 この協会は2020年、自民党の河野太郎氏が「脱ハンコ」宣言をした際、業界側の要望を申し入れた全国のハンコ屋さんの元締め的な団体。福島会長自身、明治25年創業の印章店「福島印房」4代目で、歴代店主が仕事をする姿を見て育った、筋金入りの職人だ。

 東京の神田神保町にある印章会館で、福島会長と成田克行・事務局長(66)が、大量の資料を用意して待っていてくれた。単刀直入に、「姓、名の最初の1文字を組み合わせたハンコは存在しますか」と質問してみた。すると、

「佐藤岩雄さんが、『佐岩』というハンコを持っていた可能性は十分ある」と福島会長から驚きの返答。

 その理由はいくつかある、と続ける。まず、業界の調査では、姓と名の最初の1文字を取ったハンコでも印鑑登録が認められているから、という。東京近郊では8割近くの市区町村の条例で定められ、会長の親族でも姓の1文字と名の1文字を取った事例があった、と証言してくれた。

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