肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方6 真にあきらめない治療とは?

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恵まれた国に住んでいる

大場:進藤先生のいう真の「あきらめない」には高い技能レベルと大きな責任を背負うわけです。一方、偽の「あきらめない」については、最近の事例でかなり嘆かわしい出来事がありました。私の母校であり医師としての礎を学んだ大学機関で、組織ぐるみで詐欺的な行為が展開されていたという話です。民間のインチキ免疫細胞療法クリニックの単なる支店を大学病院敷地内に招き入れていたこと自体が信じ難いのですが、それをあたかも大学研究レベル治療かのように大々的に宣伝していました。もちろんそれは臨床研究としてではなく、患者さんから高額な費用を搾取して、ただの金儲けをしていたという極めて悪質な話です。

 地元の銀行、新聞社らがこぞって「太いスポンサー」となり、大学病院の主力スタッフらが小銭稼ぎのために広告塔となり、北陸という閉ざされた地で盛大な詐欺的医療コミュニティを作り上げていたことが、10年以上にわたって看過されてきたようです。はたから見るとすぐに怪しげだとわかるのですが、「地元大学病院〇〇教授のお墨付き」のように宣伝されると、その地域の患者さんたちには優れた立派な治療に思えてしまう。リタイアした肩書のある医師らは、次の就職先としてそのようなインチキクリニックに雇われるケースが頻繁にみられます。元○○教授だとか、元○○がんセンター医師だとか、うってつけの宣伝効果となりやすい。実際の治療の中身は空っぽに近いレベルでしょう。そこには、高い技能や大きな責任は存在しません。

 関与した医師らはもちろん、わかって黙していた医師会や大学組織関係者らは、騙したがん患者さんたち全員に謝罪すべきだと思います。海外なら医師免許はく奪の措置がとられてもおかしくない。

進藤:根拠のない医療をめぐる嘆かわしい状況は我が国特有のもので、我々医療者が一般向けにきちんとした教育・啓蒙活動をしてこなかったという点がそもそもの大きな問題であると思っています。医療に限らず真の専門家をリスペクトする文化がないこと、マスコミの情報発信能力の低さも問題です。国民のリテラシーが低いというよりも、そもそもリテラシーを磨く機会がないわけです。ですからこうした現状はだまされる一般の人が悪いのではなく、医療業界の構造の問題としてとらえねばならないと思います。

 日本に暮らす人は、世界一の医療を世界一安く、誰もが受けられる恵まれた国に住んでいるということを自覚しなくてはいけません。そしてそれは多くの医療者の献身と使命感の上に成り立っているということも知ってほしいと思います。勤務医の劣悪な労働環境と低賃金は一般の方には誰に話しても驚かれますが(笑)、この世界には夢の治療も神の手も存在はしません。我が国の高度ながん医療はそれを支える多くの医療者の努力があって成り立っています。それを知っていただくために我々も一般の方に対する教育・啓蒙活動を進めていかねばならないと思っています。

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