肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方6 真にあきらめない治療とは?

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QOLを維持すること

 実際に治ることが難しい難治がんの場合、治療のゴールが「上手にがんと共存する」になることもしばしばだ。しかし、そういったことが医師とのコミュニケーションの中でなかなか共有されず、絶望に打ちひしがれる患者も少なくない。他方、その心理につけ込み、“偽の希望”を吹聴するエセ医学の横行も国内ではなくならない。ふたりの医師の対談から考える、真にあきらめないがん治療とは?

大場:患者さんの立場で考えると、「治る」という明確なゴールを目指し、強く望むのはよくわかります。しかし、いくら医学が進歩しようとも、今ある治療法ではどうしても難しい病状というものも存在します。がんの怖さは進行することであり、それに伴っていろいろな苦痛が生じ、従来できていたこと、例えば美味しく食事を食べること、家族と旅行することなどができなくなることです。

 したがって、治ることが難しい「ステージIV」では、残された時間をできる限り自分らしく、QOL(生活の質)を維持することにも希望を見出してほしいと思います。希望という言葉が本当に難しいのは、がんという病気の場合、決して治すことばかりが希望ではないということです。QOLは通常、生活の質と訳されますが、人生の質、命の質とも解釈できます。そのために、われわれ医師はどのようなサポートをしてあげられるか。

メスを握ると同時に置くという選択

進藤:患者さんが「治りたい」と思って我々のところに来るように、我々にも「治したい」という欲求はあります。特に手術は「根治」を目指すための治療ですから我々もギリギリまで可能性を追求します。しかし「治す」という視点で考えると、がんはやはり難しい病気です。手術もどのラインで手を引くべきなのか、私も駆け出しの頃はそれがよくわかりませんでした。「これは無理だ。諦めよう」という指導医の言葉にも、なかなか素直に従えませんでした。

 自分が諦めたら、その人の運命が決まってしまうようで嫌だったわけです。しかし例え命が繋がったとしても、手術をきっかけとした合併症で寝たきりになってしまったり、かえってそれが命を縮める結果になってしまったり、よかれと思って行う医療が本当にその人にとっての正解だったのかと振り返って思うことは医者であれば誰しもあります。

 がんというのは、ゆっくりと命を削っていく病気です。大動脈解離とか、心筋梗塞とか、クモ膜下出血などのように、突然死に直面するような病気ではありません。ですからQOLを維持し、普通の生活を送ることができる時間を延ばすこと、それは十分可能ですし、がんの治療においてとても重要な視点だと思います。がんの治療には身体に負担を強いることと引き換えに「治癒」というハイリターンを目指す手術のような治療もあれば、がんの根治は望めなくても、がんの進行を遅らせ、普段通りの生活を送れる時間をなるべく延ばしていくための薬物治療もあります。

「緩和医療」という言葉も、もう治療法がない患者さんに行われる医療のように受けとめられがちですが、身体に悪さをする苦痛を除去し、QOLを保つための「積極的」な治療であり、これも一定の予後の延長に繋がります。身体の状況によってバランスを考え、それぞれの患者さんのニーズにあった治療の選択を行っていくことがやはり重要だと思います。場合によっては無理な治療介入は行わず、自然経過でみることもあります。私の外来にもそういう方はいらっしゃいます。

 がんの治療というのはどうしても「治療が続けられない=死」というような受け止められ方をしますが、それは必ずしも正しいわけではありません。例えば全身の状態が悪いのに無理に抗がん剤を続けて体力を奪ってしまっては、命は縮まってしまうわけですよね。私もがんを扱う外科医として何万回もメスを握り、何千人もの人生を見送ってきましたが、メスを握るという選択と同じくらいメスを置くという選択も、それぞれの人生を思うと、必要な選択肢の一つであると考えています。

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