肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方6 真にあきらめない治療とは?

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無謀な挑戦はしない

進藤:「あきらめないがんの治療」というのは、言葉にしてみるとよく聞こえます。ただ、それは文字通りに受け取ってはいけませんし、安易に使ってもいけない言葉です。私は同じ肝胆膵外科医の中でも相当シビアなケースまで可能性を追求している外科医の一人ととらえられていると思いますが、なんでもかんでも引き受けているわけではありませんし、無謀な挑戦はしません。手術というのは医療という名目がなければ傷害行為であり「やってみる」は許されません。病を治療するために頭で思い描いたことを安全に完遂し、元気に退院させなくてはいけません。我々の世界には「成功」とか「失敗」という概念はなく、100%に近い確率で成功させられると思えなければ手術をすべきではありません。

 私が言う「あきらめない」とはどういう意味かについては、昨年10月に上梓した『あきらめてはいけない肝臓のがんの話』(医学と看護社)という拙書の中で詳しく書いていますが、進行がんは同じステージIVでもさまざまな条件の患者さんが存在しており、全員が一緒ではありません。求められる治療の戦略も、根治や長期生存の可能性もまちまちです。ですから例えばステージIVだから全員が抗がん剤治療という考え方は大きな間違いで、条件によっては手術が適切なケースもありますし、集学的な治療が効果を示すケースもあります。一元的なものの見方ではいけないわけです。我々は手術がしたくてやっているわけではなく、それを一つの手段としてがんで苦しむ人の運命を変えたいと思ってこの仕事をしています。ですから進行がんでも手術をはじめとする根治的治療によって大きな生存延長が期待できると考えられるケースに対しては我々も患者さんと一生懸命努力するわけです。

 ちなみに前述の本の英文タイトルは“The fate is unpredictable at initial presentation”と言います。「初診で患者さんの運命は分からない」という意味です。がんの進行度はその先の生存確率を予測しますが、100%予測できるわけではありません。良かれと思って手術を行ってもがんの勢いに勝てず、早く再発してお亡くなりになってしまう方もいます。何件もの施設で絶対に手術は無理と言われても、集学的な治療(手術、放射線、抗がん剤などを組み合わせた治療)により根治切除にたどり着くことができる方もいます。

 運命とは受容するものではなく、これから見極め、創造するものだと私は思っています。だからできることから一緒に頑張ろうと言います。患者さんをよく見て、病気をよく見て、戦局を判断し、適切な選択肢を提示する。それが専門家としての我々の役割です。そういう姿勢がなくては本来救えるはずの患者さんを救うことはできません。

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