老年医学の権威が明かす「脳の若返り」メソッド SNSの活用法と“高齢者ならでは”の勉強法とは?

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前頭葉は40代から萎縮

 ところが思考や意欲をつかさどる前頭葉は衰えやすく、40代から萎縮がはっきりすることがわかっています。前頭葉の衰えが進むと、少し専門的な言い方になりますが、「認知的成熟度」が下がってしまいます。

 世のなかで起きることは、なにごとも白か黒かで判断できるものではなく、必ず中間のグレーゾーンがあるものです。しかし、認知的成熟度が下がると、どんなものごとも二分割して考え、グレーゾーンが許せなくなります。こうなると他人の意見を受け入れられず、ディスカッションも成り立たず、話は説教臭くなり、周囲から煙たがられてしまいます。そのうえ、こうした二分割思考の人は、うつ病になりやすいという指摘もあります。

 ですから、高齢になるほど、前頭葉をできるだけ萎縮させないための勉強が求められ、そのためにはアウトプットこそが重要なのです。70年も80年も生きてきたのだから、知識や経験はもう十分に蓄積されています。これからは新しい知識を詰め込むよりも、自分がため込んでいるものを、自信をもってアウトプットしていきましょう。

 勉強というと、日本人はどうしても、本を読んで新しい知識を吸収しようとします。もちろん、それも意味がないことではありませんが、それだけでは脳の若返りに、あまり役に立ちません。アウトプットすれば、相手から意見や反論も返ってきます。そこでディスカッションすることも、脳の活性化に有効です。

インプットより重要なアウトプット

 アウトプットがなぜ重要なのか、記憶のメカニズムにからめて、もう少し説明しましょう。

 年を取って、記憶力が低下した、と話す人は多いですが、そこには記憶のメカニズムへの誤解があります。というのは、70代くらいの人が経験する記憶障害の多くは、久しぶりに会った友人の名前が思い出せない、といった想起障害です。

 では、なぜ想起障害が起きるかというと、人間の脳は上書きされればされるほど、昔の記憶を引き出しにくくなるからです。年を取るほど上書きは増えるのに、インプットばかり重ねていれば、脳内に蓄積された記憶は想起されにくくなります。でも、アウトプットする経路を作ってやれば、想起しやすくなります。

 会社に通わなくなると会話する相手が減り、アウトプットの機会も減少しがちです。すると、せっかくインプットした知識が出てきにくくなり、記憶力が低下したと思い込み、自信を失ってしまう人がいます。しかし、アウトプットが中心の勉強をすれば、記憶の想起がうながされ、前頭葉が活性化するのです。

 こうした機会を増やすためには、会話仲間を作るといいです。それが難しければ、考えたことをSNSに投稿してみるのもいいでしょう。SNSでも反応が返ってくれば、ディスカッションもできます。そのときに大切なのが、「認知的複雑性」が高い意見を発信できるかどうかです。

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