老年医学の権威が明かす「脳の若返り」メソッド SNSの活用法と“高齢者ならでは”の勉強法とは?

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肉をよく食べて、日光に当たる

 意欲が失われると、家でごろごろと寝てばかりになる人が多いです。すると運動量が減って、身体機能が衰えていきますが、1日当たりの歩数が少ない人(5736歩未満)は、多い人(1万407歩以上)に比べて約3倍も、前頭葉が萎縮しやすいという研究結果もあるのです。

 もちろん運動は、気分を切り替えてメンタルの健康を保つためにも有効です。

 このように、勉強をして前頭葉を萎縮させず、脳の若さを保つことは、意欲を維持するためにはもちろんのこと、フレイルと呼ばれる心身の活力が低下した状態に陥るのを予防するなど、心身全体によい影響をもたらすのです。

 もうひとつ忘れてはならないのが、脳内の神経伝達物質のひとつで、「幸せホルモン」の別名もあるセロトニンです。中年期を過ぎると徐々に減少しますが、セロトニンが減ると気分が落ち込みやすくなります。現にうつ病の人はセロトニンの量が少ないのです。結局、セロトニンが減れば、勉強もままなりません。だから増やすために、肉をよく食べて、太陽の光に当たることが重要です。

若者でも前頭葉を使えていない人も

 このように勉強を続けるためには、よく歩き、肉を食べ、日光を浴びるという、健康で長生きするための基本的な心がけが欠かせません。その結果、意欲が湧いて勉強が進めば、前頭葉が活性化されてさらに意欲が増し、活動的になってもっと健康になる、という好循環が生まれます。

 そもそも人間の脳は、一生のうちに全体の1割も使われません。せめてその1割を勉強などに使わなければ、老化に負けていくばかりになってしまいます。

 現実には、若者でも前頭葉をちゃんと使えていない人が大半ですから、気を付けていないと、認知的複雑性の低い考え方しかできなくなってしまいます。

 だからこそ、人も出来事も白と黒に単純に分けられるものではなく、間にグレーの領域があるのだという当たり前のことを認識し、答えは何通りもあるということを、肝に銘じてください。勉強を重ねながら、こうしたことを意識的に身に付ければ若者に勝てます。

 そうやって脳の若さを維持してこそ、人生100年時代に健康で長生きを実現できるのです。

和田秀樹(わだひでき)
精神科医(老年医学)。1960年大阪生まれ。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長、国際医療福祉大学大学院特任教授。高齢者専門の精神科医として30年以上、高齢者医療の現場に携わっている。『「人生100年」老年格差 超高齢社会の生き抜き方』(詩想社)など著書多数。

週刊新潮 2022年5月26日号掲載

特集「老年医学の大一人者が指南 健康寿命を延ばす『70代からの勉強法』より

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