老年医学の権威が明かす「脳の若返り」メソッド SNSの活用法と“高齢者ならでは”の勉強法とは?

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グレーゾーンを許容できなくなる

 先ほど認知的成熟度について述べましたが、つまりこういうことです。曖昧さをよしとして、グレーゾーンを受け入れることができるのが、「認知的複雑性が高い」といわれる状態で、そういう人が認知的成熟度の高い人です。

 しかし、年を取ると前頭葉の衰えとともに、認知的複雑性が低い考え方をしがちです。白と黒の間のグレーゾーンを考えられなくなってしまうのです。

 たとえば、いまなら「プーチン大統領は完全なる悪だ」という考え方しかできない人は、認知的複雑性が低いといえます。道徳的には、ウクライナに侵攻した悪人でしょう。しかし、経済を活性化してロシアに富をもたらした人物でもあります。このように人物や物事を多面的に見ることができる人ほど、話を聞いてみたいと思いませんか。

 そして認知的複雑性が低く、物事を二分割思考でしか捉えられない人は、味方だと思っていた人から少しでも批判されたりすると、たちまちその人を敵だと判断してしまいます。自分の考えが絶対だと思うあまり、異なる意見の人を攻撃することもあります。

ルーティンの排除

 自分の思考や態度を見直したときに、こうした傾向があると感じられたら要注意です。残念なことに、テレビのワイドショーを見ていると、認知的複雑性の低い人ばかりがコメンテーターを務めています。テレビとしては、白か黒かはっきりと意見してくれる人のほうが、番組を構成するうえで好都合なのだと思いますが、それを「なるほど」と鵜呑みにしていては、脳が退化してしまいます。

 老年医学の分野での例を挙げましょう。その世界の専門家は長いこと「老人とはだいたいこんなもの」という見方をする人ばかりでしたが、私の大先輩の柴田博先生は、地道なフィールドワークを重ね、コレステロール値がやや高い人のほうが死亡率は低かったことなど、それまでの常識をひっくり返す発見をしました。鵜呑みにしないで常に疑う、という姿勢の大切さを教えてくれます。

 そのために大切なのは、ルーティンを排除することです。ルーティンとは、同じ著者の本ばかり読んだり、同じ新聞だけを読み続けたりすることで、そうしていても前頭葉は活性化されません。むしろ、自分からも異論が出るくらいの本を読んだほうが、前頭葉への刺激になります。

 たとえば、朝日新聞の愛読者が「正論」を読んでみるのです。論旨に納得しろ、と言っているのではありません。「ふざけるな」と反感を覚えるだけでも脳への刺激になります。その際、ぜひ反論を考えてみてください。その意見を友人に話すだけでアウトプットになり、すでに立派な勉強です。

 加えて言うなら、意見を表明するという他人との交流それ自体が、前頭葉の機能が低下するスピードを遅くし、脳や感情の若さを維持するために役立ちます。

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