橋幸夫が語る「78歳での大学入学」 歌手引退の真意と西郷輝彦との思い出

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大学入学のきっかけ

〈かくして今回の決断に至った橋が「第二の人生」のメインにしたものは何か。〉

 大学で学ぶことにしました。六十ならぬ八十の手習いですよ。僕は忙しくて高校は実質2年しか通えていないから、60年振りの学生生活になります。といっても、通信制で、オンラインでの講義が主ですけどね。

 今年度から京都芸術大学の通信教育部に、書画コースというのが新しくできたんです。引退を決めた後にそれを知り、思わぬ「縁」を感じました。

 僕は40年ほど前から、書道を学んでいます。歌手をやっていると、サインをお願いされることがあるでしょ。あんまり下手な字じゃ申し訳ないと思って、高校で書道の先生をやっていた方に10年ちょっとは習っていました。

 それが終わって、ある時テレビを見ていて、書道でも「キャレ文字」というのがあるのを知りました。キャレ文字というのは、書道でも少しモダンで、額に入れてインテリアとして飾るようなアートのことです。面白いな、と思ってテレビに出ていた先生に電話をかけて、スクールに入ったんです。そこで7~8年、2人の先生について習いました。その2人目の先生が久しぶりに電話をくれて、「橋さん、引退発表して新しい道を探していますか?」と。「はい」と言ったら、今度講師になります、と大学のことを教えてくれました。これは面白いな、と思って願書を出したら、1カ月後におめでとうございます、と合格通知が来たんですよ。とんとん拍子に話が進みました。

「殺す気ですか!」と文句を言いながら

 その後、大学の事務局が「ありがとうございます」とご丁寧に電話をかけてくださいまして。「橋さんが入学することで校内でもかなりの反響があり、500人くらい書画コースに入ってくる学生さんがいるんですよ」と。それで、この4月3日の入学式では、新入生代表としてあいさつまでしました。「新しい夢と人生のスタートを切れることに喜びを感じています」と紋付羽織袴姿で。この年齢になりますが、学び足りなかった学生生活をもう一度楽しんでみたいですね。何とか頑張って4年間で卒業したい。それが今の目標です。

 あっ、でも、勘違いされている方も多いようですが、芸能活動そのものを引退するわけではありませんよ。歌手を辞めるというだけで、例えば俳優の仕事のオファーが来れば、お受けすることもあるかもしれません。その意味ではまだ芸能人としては「現役」です。

 それに、来年まで160カ所を回るファイナルコンサートがあるんですよ。この間も、事務所の社長に「殺す気ですか!」って笑いながら文句言ったりして。もう体を壊したり、ボケたりする暇もない。

 僕にとって「老い」というのは天命。天から「お前は年なんだよ」と自戒を促された。そうして引退を決めた後に、こうやって新たな道を見つけられたことも、また何かの導きだと思っています。

 残りの人生がどこまであるか。「いつでも夢を」持ちながら、精いっぱいエンジョイしていきたいですね。

週刊新潮 2022年5月19日号掲載

特別読物「傘寿の大学入学で『いつでも夢を』 歌手引退『橋 幸夫』が語り尽くした『引き際の美学』と『御三家』秘話」より

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