肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方3 「生存率」をどのように読み解くのか?

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がんの世界にステージⅤはない

進藤:ステージIV大腸がんの治療というのは、大場先生がおっしゃるように転移した進行がんだから抗がん剤、などといった画一的なものの考え方ではダメで、「個々の患者」に対するベスト・プラクティスを検討していく必要があります。ステージⅣの大腸がんを考える場合に知っておかないといけないことは、「ステージⅠからⅢまでのがんよりも進行してしまったものはすべてステージⅣである」という点です。

 がんの世界にステージⅤはありません。同じステージⅣでも、肝転移だけなのか、肺転移もあるのか、腹膜播種(ふくまくはしゅ)や遠隔のリンパ節転移もあるのか、腫瘍の数や腫瘍の大きさはどうなのか、患者さんごとに条件が大きく異なっています。ですから施設間のステージIVの成績比較というのは厳密な意味ではできないわけです。

 我々の施設の場合、ステージⅣ大腸がん全体の5年生存率はご紹介いただいたように27%ですが、肝転移切除症例のみに限れば66.4%(追跡期間中央値 53.6か月)です。ステージⅣ症例全体の内訳をみてみると、肝臓以外にも転移を有している症例が64%、長期生存が厳しいとされる腹膜播種を有する症例が29%、腫瘍が進行しすぎていて完全切除が不能と考えられた症例が58%ということで、うちの施設の場合はそもそも手術の対象とならないような高度に進行したケースが多いという特徴が見えてきます。

 難治がんの治療成績を議論する場合はどうしてもステージⅣを一括りにした話が前面に出てきがちですが、ステージIVのがんというのはこのように非常にバラツキのある集団であり、こうした数字の成り立ちや解釈には注意が必要となることを一般の方にはぜひ知っておいてほしいと思います。

大場:なるほど、同じステージⅣでもグラデーションがあって、それぞれの転移の仕方 (様式)や腫瘍の条件によって治癒ポテンシャルの度合いも変わってくるということを教えていただきました。病院としての治療成績も、大腸がんの場合、外科的治療と内科的治療の合算でしょうから解釈がなお難しい。加えて、ひと言で大腸がん肝転移に対する手術と言っても、手術自体に対する考え方も施設間によってだいぶ異なるでしょうし、ラジオ波焼却療法(RFA)という別の局所治療法の意義についても吟味する必要性がありそうです。そして、もっともさらに重要な鍵は「再発した場合」にどう考えるかです。ぜひとも知ってほしい真に「あきらめない」治療戦略の詳細については、ぜひ機会をあらためてよろしくお願いいたします。

大場大 おおば・まさる
1999年 金沢大学医学部卒業、2008年 医学博士。2021年より東京目白クリニック (豊島区) 院長。2009年-2011年 がん研有明病院。2011年-2015年 東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教。2019年より順天堂大学医学部附属順天堂医院肝胆膵外科 非常勤講師も兼任。専門は、外科学、腫瘍内科学、消化器病学全般。書籍・メディア掲載も多数。

進藤潤一 しんどう・じゅんいち
2004年 東京大学医学部卒業、2012年 医学博士。2014年より虎の門病院消化器外科 (肝・胆・膵)所属。2011年-2012年 米国MDアンダーソンがんセンター腫瘍外科。2013-2014年、東京大学医学部附属病院肝胆膵外科 助教。専門は、肝胆膵外科学、腫瘍外科学。特に肝臓外科領域の研究業績では世界の若きリーダー。医師向けの教育講演も国内外で多数。

デイリー新潮編集部

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