肝臓・胆道・膵臓の「難治がん」との賢い闘い方3 「生存率」をどのように読み解くのか?

ドクター新潮 医療 がん

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生存曲線のカラクリ

進藤:おっしゃる通りだと思います。これはメディアの報道の仕方に問題があります。確かに「がん」という疾患に対する理解と治療法の開発が進み、がんが早期に発見され、適切な治療で治癒に至る患者さんが増えていること、進行がんでも新規の薬物治療(抗がん剤)によって生存延長が見込めるようになってきたことから、それぞれのがん全体で見れば生存率は上がっています。これは医療の進歩を示す指標としては適切だと思います。

 一方で我々が見ている生存曲線は、治癒した人と、治療の歯が立たず早期にお亡くなりになった方など、さまざまな患者さんの生存期間の「足し算」から推定されているわけで、この生存率にはステージⅠからステージⅣまで様々な患者さんが含まれていることを考えねばなりませんよね。がんと診断されてあなたはステージⅢですと言われたら、自分のがんのステージⅢとはどのようなものかのデータが重要なわけです。

 我々医療者も患者さんの現時点でのがんの進行度に合わせて治療の仕方、順序、タイミング、フォローアップ(経過観察)方法などを考えますから、それぞれのステージ別の生存率が時代とともにどのように変わってきているのかのデータは重要です。現在、どのがんのどの集団の成績がまだ悪いのか、転移がみられるステージⅣでも大幅に予後が改善してきているがんがあるのか。

 ここでいう生存率のデータのもととなっている「がん診療連携拠点病院における院内がん登録生存率集計」ではそうした情報も実は公開されているわけですが、単純にがん患者さん全体の生存率を見て日本のがんの生存率が海外と比べてどうだとか意味のない比較を行うのではなくて(母集団が違うため厳密な意味で優劣の比較はできない)、公表されたデータの中身をかみ砕き、良くなっている部分、まだまだ課題とされる部分、そうした情報を一般向けに分かりやすく解説する取り組みがないのは残念ですね。

大場:本当にそう思います。現在の数字を正当化するだけで、臨床に精通していない統計家目線での評価しか語られておらず、反省点や課題の掲出、ビジョンの提案などが見られない。受け取る側が数字リテラシーを研磨していくほかありません。進藤先生の言う大幅に予後が改善しているステージⅣのがん中のひとつに、前回の対談でも触れた大腸がんが挙げられますね。大腸がんは転移臓器として肝臓が“好き”で、その5割以上が肝臓、次いで肺にもみられやすい。抗がん剤治療の飛躍的進歩によって転移を抱えていても、2年~3年とQOL(生活の質)を維持しながらお元気な患者さんはたくさんいらっしゃいます。

 私が研修医だったころは、有効性をいまひとつ実感できない治療法がわずか一つ二つしかありませんでしたから、最新の大腸癌治療ガイドライン(医師用2022年版 金原出版) の内容をみると隔世の感があります。それでも、進歩した抗がん剤のみでがんを治すことは難しい。ではどうしたら治せるチャンスが生まれるのか。それは、主は大腸疾患だけど、進藤先生のようなエキスパート肝臓外科医がどれほど関わることができるかによります。

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