「働く」「学ぶ」「暮らす」と未来のオフィス――黒田英邦(コクヨ株式会社代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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働き方のデータを集める

佐藤 そうしたオフィス家具事業の先にTHE CAMPUSがある。

黒田 昨年オープンした時には、2030年に向けての長期ビジョンも発表し、これから数十年の世の中の変化を前提としながら、コクヨグループの“ありたい姿”、すなわち“自らをどのように変えていくべきなのか”を設定しました。このTHE CAMPUSはそれらを体現する存在になります。

佐藤 実に多様なオフィスの提案があります。

黒田 先ほども少し触れましたが、大きく世の中が変わっていく中で、「働く」ことは「暮らす」領域に染み出し、その垣根は揺らいでいます。働く場所は家や街の中に広がり、オフィスに限らない。また社員と仕事をするだけでなく、さまざまな外部パートナーと組む必要性も高まっています。そこでビル全体を使って新しい働き方をお見せすることにしたのです。

佐藤 どんなフロアがあるのですか。

黒田 例えば南棟8階の「集う」フロアは、社員が集まってディスカッションやコミュニケーションを行うことを想定したオフィスです。7階の「試す」フロアは、専門的な業務やプロトタイピング(試作)の検討・検証を行うためのスペースで、6階の「育む」フロアは、コミュニケーションを促し、人と組織を育むためのフロアです。ほかにも新たな学びや経験、刺激となる「経験の拡張」につながる空間があります。

佐藤 それらのどこで働いてもいいのですね。

黒田 はい。ABW(Activity Based Working)と言いますが、自分の仕事の内容に合わせて働く場所も時間も選ぶスタイルが広がっています。ここでも自分の仕事に合わせて、フロアを選んでもらっています。

佐藤 ここには何人の社員が働いているのですか。

黒田 約千人です。

佐藤 彼らの働き方のデータ分析もされているそうですね。

黒田 Wi-Fiにつないだスマホの位置情報から、いつ、どこで、誰と仕事をしているかといったデータを集めています。コロナの影響で在宅勤務が多くなってしまい、想定したデータ量より少ないのですが、どういう職種の人が出社しなければならないか、社員の安全、健康面などの「ウェルビーイング」の観点からは、有効なデータの可視化ができたと考えています。

佐藤 同意を得た上で、仕事の満足度や自己成長など16項目を分析するとも資料にありました。その点で、何かわかったことはありますか。

黒田 一番大きいのは、若手が出社できなくなったことによる弊害ですね。まず若い人たちが成長の実感を得られない。そしてその問題に対して、マネジメント側の人がどうアプローチしていいかわからない。若手社員の満足度評価や業績、業務量との関係を追いかけていくと、うまく対処できているマネージャーもいますが、多くは対応に苦慮している。

佐藤 まさに今日的な課題ですね。

黒田 「オンボーディング」と言いますが、組織に入って慣れていくことと、成長実感の二つにどう対処していくか、これがいまの課題です。

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