「働く」「学ぶ」「暮らす」と未来のオフィス――黒田英邦(コクヨ株式会社代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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次の時代のコクヨへ

黒田 このTHE CAMPUSのもう一つの特長は「街に開かれたオフィスビル」ということです。ビル1階をパブリックスペースにして、近隣の住民が遊びに訪れたり、他の会社の方がランチを食べたり仕事をしにきたりできる場所にしました。それによって、社員の働き方やマインドに変化が起きたり、商品開発や企画の作り方などに化学反応が起きることを期待しているんです。

佐藤 1階部分はかなり広い。

黒田 そこでさまざまなイベントも行っています。コクヨのイベントだけではなく、外部の方と一緒にやることもあります。直近では、スマイルズさんが運営するニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」が主催する「PASS THE BATON MARKET」をTHE CAMPUSにて共催し、販売ブースの出展やワークショップを実施しました。「日本の倉庫を空っぽに。」を合言葉に、企業やブランドの倉庫に眠っていた規格外品やデッドストックアイテムを集めたのみの市で、数多くの企業が参加されています。大変多くのお客様にご来場いただき大盛況でした。

佐藤 どのくらい人が集まるのですか。

黒田 土曜日と日曜日の2日間にわたって開催され、約5千人のご来場がありました。このあたりはオフィス街ですから、週末はゴーストタウンなんですよ。

佐藤 大盛況ですね。

黒田 密にならないギリギリの規模で、売買はすべてキャッシュレス決済にするなど、感染対策も万全にして実施できました。私どもの販売ブースでは、キャンパスノートの原紙をロールで販売しました。それは幼稚園の先生が大量に購入されていきましたね。

佐藤 いい買い物になったでしょうね。大きな紙は子供たちが喜びます。これはつまり廃棄物を減らす試みで、社会課題の解決につながっている。

黒田 はい。THE CAMPUSができるタイミングで開催のご相談があり、街に開くというコンセプト体現の観点から共催を決めました。「外に開く」ことを具体化したイベントですし、社会課題への取り組みでもある。いまのコクヨのあり方を示すに当たって、大きな意味があると思っています。

佐藤 というのは?

黒田 私の代では、文房具や家具だけのコクヨではなくしたいんですね。もちろんこれまで培ってきたブランドイメージやアセット(資産)も使っていきますが、文房具やオフィスと直接関係なくても世の中に貢献できるような活動には積極的に取り組んでいきたい。

佐藤 そのためには社員の力を引き出すことが必要になりますね。コクヨには「社内副業」の制度があると聞きました。

黒田 「20%チャレンジ制度」と言って、就業時間の20%を社内の副業に使えるようにしました。多くの会社では、営業に入ったらずっと営業、開発に入ったら開発で、同じ部署でキャリアを積み重ねます。でも自分自身でキャリアを考える時代に、会社の中が単線で固定化しているのはおかしい。そのために優秀な人材が流出していくなら、社内を流動化させればいいと考えたんです。

佐藤 それは極めて賢明な戦略だと思います。やはり社外の副業にはリスクがあり、利益相反する領域で副業する人も出てきます。それに副業で成果を出している人なら、ライバル企業が引き抜くことも考えられます。それが一番簡単ですから。

黒田 弊社は保守的というわけではありませんが、歴史のある古い会社で、いま変わっている最中なんです。そこで急に副業を解禁してしまうと、一部の尖った人だけがそれを利用し、他の大勢が動けない。だから社内副業なんです。この制度のポイントは、さまざまな部署が求人することです。社内で6カ月間、その人の時間の20%を使って手伝ってほしいと社内に求人を出す。そこに社員が手を挙げる仕組みです。

佐藤 どのくらい求人を出しているのですか。

黒田 だいたい50件くらいですね。

佐藤 かなりありますね。そうした形なら、手を挙げやすいでしょうね。一方で「社内大学」があるそうですね。

黒田 「マーケティング大学」という制度を作っています。いまの時代は、マーケティング=経営という側面が強い。だからどの役割の人も、マーケティングを一つのスキルとして持っておいた方がいいと思うのです。自分の仕事が世の中にどうつながっているか、わかりますから。

佐藤 具体的にはどんなことをするのですか。

黒田 未来の事業環境を客観的に考察し、新規事業を考えてもらいます。外部アドバイザーに講師をしていただきながら、最終的には彼らで役員に事業構想をプレゼンします。

佐藤 実際に事業化されるのですか。

黒田 まだ新規事業化するところまではいっていないですね。ただ社員が考えていること、やりたがっていることがよくわかる。つまり、社員の顔がよく見えてきます。

佐藤 では今後、どんな人材が欲しいですか。

黒田 コクヨはモノやサービスを作って117年の歴史があります。そのアセットを生かして仕事ができる人ですね。そのためにはやはりチームワークが必要です。チームワークを生かしながらリーダーシップを発揮して、新しいこと、面白いことに取り組んでいける人が望ましい。

佐藤 リーダーシップとフォロワーシップを兼ね備えた人ですね。

黒田 また、私どもは事業領域を「ワークスタイルとライフスタイル」に定めました。働き方、学び・暮らし方は今後もどんどん変わっていきます。だからそれに対して知的好奇心や探究心を持ってくれる人に来てほしい。そういう人にはすごく楽しい会社だと思いますよ。

黒田英邦(くろだひでくに) コクヨ株式会社代表取締役社長
1976年兵庫県生まれ。コクヨ創業者・黒田善太郎のひ孫。甲南大学経営学部、米ルイス&クラークカレッジ経済学部卒。2001年コクヨ入社。オフィス家具部門の法人営業、経営企画部長、子会社コクヨファニチャー社長などを経て、11年常務執行役員。14年取締役専務執行役員。15年 代表取締役社長執行役員に就任。

週刊新潮 2022年5月5・12日号掲載

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