浮気され「精神的殺人」と許さない妻、やまない尋問に疲弊する夫 “負のループ”に陥った夫婦の行方は?

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20数年ぶりに実を結んだ「一目惚れ」

 ただ、恋心はそうそう抑圧し続けることもできない。ある日の夕方、優花さんがふとつぶやいた。

「あ、今日は誕生日だった、忘れてたって。家族もいない、恋人もいないから誰も祝ってくれないんだと言った優花を見たとき、もう自分の感情を抑えられなくなった。『早く言ってよ、食事でもしよう』と誘いました。『いいの?』と上目遣いで僕を見た彼女の顔がたまらなくいじらしかった」

 すぐに仕事で利用したことがあるイタリアンの個室を予約した。再会してからふたりきりでランチやお茶程度ならしたことはあったが、ディナーは初めてだ。

「学生時代の話や、優花の留学の話など、彼女の人生の全貌がようやく見えた感じがしました。彼女の仕事ぶりが認められて正社員になることを打診されていると聞き、『ずっと一緒に仕事したい、ぜひ社員になってほしい』と思わず言いました。すると彼女が『あのとき、誠司さんとつきあっていたら、私の人生、変わったよね。ひとりぼっちじゃなかったかもしれない』って。それは言うな、言わないでほしいとつぶやいたら涙声になってしまって。彼女が驚いたように『大丈夫、こんなふうに誕生日を祝ってくれる人がいるんだもの、私はひとりでもやっていけるよ』と逆に慰めてくれて。ふたりで顔を見合わせて少し笑ってしまいました」

 心が行き交った瞬間だろう。店を出ると彼は彼女の手を握った。彼女は力強く握り返してきた。だからそのままタクシーでホテルに行った。

「素敵な夜でした。今でも忘れられない。僕の一目惚れが20数年ぶりに実を結んだ夜だった」

 ふたりは「節度をわきまえた」関係を続けようと誓い合った。SNSにはいっさい、この関係をほのめかすような投稿はしないこと、だが周囲は大学時代からの知り合いだとわかっているのであえてよそよそしくもしない、友だちとして仲良く振る舞う、亜樹さんは優花さんが誠司さんと同じ職場にいることを知らないから、そこはあえて知らせないなどなど、迷ったときは相談しながら関係を続けた。

「ふたりがよそにしゃべらない限り、僕らの関係はバレない。そう思っていました。僕はときどき学生時代の友人たちに会っていたけど、優花は相変わらずまったく誰とも会っていなかった。『会って、今、どんな仕事をしているのと聞かれたら、そこからバレそうじゃない?』と言ってましたね。彼女の慎重さがあったから続けられたんだと思う」

 携帯でメッセージのやりとりをする際も、彼女の登録名は“田中勝”だった。ただ、メッセージはほとんどすぐに削除していたし、めったにやりとりもしなかった。それほど気をつけていたのだ。

ところが妻にバレてしまい…

「なのに4年前、妻にバレたのはただただ僕のミス。優花が会社内でケガをして病院に運ばれたことがあったんですが、そのとき僕は外出していた。帰社して知り、仕事が終わってから同僚と一緒に見舞いに行ったんです。命に別状があるわけではなかったけど、帰宅途中で、ひとりベッドに横たわっている彼女を思い出したらとてもつらくなって……。『きみのことを思うとつらい』とメッセージしてしまった。それを彼女が深夜に見たらしく、『こんな時間にごめんなさい。今日は顔を見られてうれしかった』と返事をしてきた。僕、その直前まで携帯で音楽を聴いていて寝落ちしたんですよ。それで携帯に彼女のメッセージが出たので亜樹が見てしまった。男名前で登録していたことがかえって妻の疑惑を深めました」

 翌朝問い詰められて、ゲイバーのママだと言い張ったが、妻は納得してくれない。さらにある日、入浴するため脱衣場まで行くと優花さんからメッセージが来た。入院中はいつでもメッセージをくれてかまわないと伝えていたのだ。やりとりを終えて誠司さんは入浴した。その直後に亜樹さんが携帯をチェック、そのまま“田中勝”さんに電話をかけてしまった。「はい」と出たのが優花さんだとはさすがに気づかなかったようだが、亜樹さんは「深田とつきあっていますか?」といきなり尋ねたらしい。

「優花はすぐにわかって電話を切った。亜樹はしつこくかけ続けたようです。翌日からは自分の電話でかけた。でも着信拒否された。オンナでしょと問い詰められて、ここは浮気そのものは認めたほうがいいと判断したんです。でも相手のことはよく知らない、バーで会って2回ほどデートしただけ、関係ももってない、と。亜樹は納得しなかった。本当はホテルに行ったでしょと毎日言われて、めんどうだから行ったことにしたら、今度はどこが好きなのと尋問が始まった。質問攻めにしては泣きわめき、疲れて眠る。そんな日々が続いて夫婦ともに憔悴しきっていきました。相手を特定できないことで苛立ってもいたみたいですが、それだけは何があっても白状するまいと」

 退院した優花さんが仕事に復帰してきたとき、げっそりした誠司さんを見て驚いていたという。「しばらく会わないほうがいい」と彼女に言われたが、それだけはできないと誠司さんはときおり彼女のマンションを訪ねた。

「別れることはできない。離婚してもいいと言ったら、『あなたの子どもたちを私と同じ目にあわせたくない』と言われて。彼女と会いつつ、自宅では妻の尋問を受ける。そんな異常な日々が1年ほど続きました」

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