浮気され「精神的殺人」と許さない妻、やまない尋問に疲弊する夫 “負のループ”に陥った夫婦の行方は?

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「あとくされなさそうな女性」との一夜もありつつ…

 結婚したのは誠司さんが31歳、亜樹さん29歳のときだった。2年後、長女が産まれ、さらに2年後に次女が誕生。亜樹さんは退職して子育てに専念した。

「亜樹は仕事が大好きだったし、自分が活かせる会社が大好きだと公言していましたから、あっさり仕事を辞めたときはちょっと驚きました。育休を使って復帰することもできたのに『子どもと一緒に過ごす時間を大事にしたい』って。後悔しないようにしたほうがいいよと言ったのを覚えています」

 子どもたちが小さいころ、亜樹さんは「子育てがつらい」とよく泣いていた。誠司さんも積極的に関わったつもりだが、いかんせん会社にとらわれている身の上、時間がなかった。今と違って残業するのは当たり前、リモートワークなどという言葉すらなかった。平日は残業するか上司のおともで接待か。週末だって出世したければゴルフのひとつも行かねばならない。

「お互いにワンオペだったということですよね。彼女は家庭に縛られ、僕は会社に縛られて」

 それなりに小遣いも使えた時代だったから、ときにはひとりで息抜きに飲みにも行った。バーで知り合った女性と意気投合して、そのままホテルに行ってしまったこともある。

「家庭があるから本気で恋したわけじゃなく、あとくされなさそうな女性と一夜の関係を結んだだけ。何度かそんなことがありました」

 口が固くて信頼できる女性、精神的にも経済的にも自立している女性を無意識に選んでいたと誠司さんは言う。30代、まだまだ体力があったので、よく働きよく遊んだ。そのあたりの行動を妻にとがめられたこともない。

「あんなに嫉妬深かった亜樹ですが、子育てに一生懸命で僕に嫉妬することはありませんでした。ちょっと寂しかったのは事実。でも子育て中の妻がどんなに大変かはよくわかったので、ゴルフに行く以外は、週末は必ず子どもたちのめんどうをみて、妻をゆっくりさせるように気を遣っていました。いい夫だと自分でも思っていたんですけどね」

 誠司さんは人のよさそうな顔をほころばせた。

結婚以来の「本気の恋」

 そんな彼が結婚以来、初めてといってもいい「本気の恋」にのめりこんだのが40歳のときだった。相手は職場に派遣でやってきたバツイチ女性なのだが、それがなんと学生時代に告白してはフラれていた優花さんだったのだ。

「こんな偶然ってあるのかとふたりとも驚いてしまって。そこそこ大手の企業ですから、派遣社員や契約社員はたくさんいるんですが、僕のいる部署に優花がやってくるとは。世間は広いようで狭い。彼女はサークル活動も熱心ではなかったので卒業後のことはほとんど知らなかったんですが、就職はしたものの『どうしても自分の人生に満足できなくて28歳で留学した』そうです。だから僕らが結婚したことも知らなかった、と。帰国してから外資系企業で働いているときに結婚したけど数年で離婚、さらに親が病気で倒れたので介護に明け暮れていたそうです」

 優花さんの両親は彼女が幼いころに離婚、父親と祖母との3人家族で育った。中学生のときに祖母が亡くなり、33歳のときに父が倒れた。自宅で介護をしていたが2年後にその父も亡くなり、派遣会社に登録して働き始めたのだという。

「そんな事情も再会して初めて聞きました。それにしても彼女の仕事の能力はすごくて、彼女が来てからうちの部署はいろいろなことが改革されていきました。篠原涼子さんのドラマ『ハケンの品格』みたいだなあと思いましたね。あちこちで自分の能力を生かして仕事をしてきた人ならではのノウハウやアイデアってあるんだなと」

 誠司さんは、優花さんに一目惚れした大学時代のことを思い出した。再会してすぐは彼女の姿にときめいていたが、一緒に仕事をするにつれ敬意が強くなった。一方で、パートに出るようにはなったが、子どもたちの私立中学の受験のために必死になっている妻の亜樹さんと、つい頭の中で比較してしまうことも増えた。

「仕事が大好きと言っていた亜樹が子ども第一になり、特に仕事への思い入れもなかった優花が今は仕事第一で生きている。男にはあまりないことですよね。女性の人生って興味深い。自分で選択できるおもしろさがあると優花に言ったら怒られました。『選択の自由とは限らない。逆に言えば置かれた状況で人生に変化が出やすいってことよ』って。『私だって本当は子どもを産んでみたかったもん』と言ったときの彼女は寂しそうでしたね」

 その表情を見て、彼はさらに優花さんに惹かれた。だが同じ職場、かつてフラれた相手、しかも妻も知っている女性となるとそう簡単に口説くことはできなかった。1年ほどは「ただの同僚」で我慢するしかなかった。

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