部品の受発注を最適化して製造業を変える――加藤勇志郎(キャディ代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

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製造業と経済安保

佐藤 キャディは経済的合理性を突き詰めることで製造業全体を作り替えつつありますが、そこに「政治」という別の要素が入ってくることがあります。特にいま法案が整備されようとしている経済安全保障の問題は、製造業に直結します。

加藤 そうですね。コロナ禍でも医療機関で必要な物資が不足するということがありましたし、日本より先に他国が人工呼吸器を押さえてしまい、国内で足りなくなるという事態になりました。この時、我々は数千台分の部品調達に携わりました。

佐藤 人工呼吸器だけでなく、空気清浄機でも協力されたそうですね。

加藤 はい。それらを通して自分の持っていたビジネスの概念が変わった感じがしました。いまの半導体サプライチェーンの問題もそうですし、日本が、半導体製造に必要な資材の韓国への輸出を厳格化したこともありましたね。

佐藤 韓国を、優遇のある「ホワイト国」から外しました。

加藤 もともと私は自由主義的発想で、比較優位の技術を持つ国がそれぞれ得意なものを作っていけばみんなハッピーになれるという考え方なのですが、安全保障問題が絡むとそれが成り立たなくなる。

佐藤 特に製造業は突然ストップがかかることがあります。軍事に転用の利くデュアルユース(軍民両用)の製品がたくさんありますから。

加藤 いま我々は、グローバルでの最適化を目指してベトナムにも拠点を作ろうとしています。そうした状況にあるだけに、経済安保は遠からず直面する問題だと認識しています。ただ私は、どんなに国家的なバリケードを強くしても、競争力の格差があったら、最終的にはいつかそれは壊れていくとも思っています。だから自分たちの強み、比較優位にある領域に特化して、そこをどんどん強めていきたい。

佐藤 こうした政治的な要素で重要になってくるのは、中高時代の友達ですよ。ある程度の年齢になって本当に相談できるのは中高時代の友達で、加藤さんの場合、行政官になったり法律家になったりした人が多いでしょう。経済安保のような問題で、どこが落とし所になるかのヒントは、そういう人間関係からもたらされることが多い。

加藤 そうかもしれませんね。

佐藤 官庁の集まる霞が関には「霞が関開成会」があって、岸田総理がその会長、事務局長が経済安全保障への道筋を作った前国家安全保障局長の北村滋さんです。

加藤 そうでしたか。

佐藤 今後の事業展開では、どんな方向を考えていますか。

加藤 先ほど触れたベトナムに拠点を持つこともありますが、次の事業の最優先候補の一つは「ファイナンス」です。

佐藤 町工場に融資するのですか。

加藤 我々は、町工場の受注量やどんな製造装置があり、どういった生産ラインがあるかを把握しています。そうするとPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)に出ないその会社の本質的な強みを見極められる。つまり銀行が融資できなかったり、ファクタリング(売掛債権を買い取って代金を回収するサービス)できないところへ、より低金利で支援できます。

佐藤 確かに町工場の状態は銀行よりよくわかるでしょうね。

加藤 また与信をコントロールすることもできます。本質的には強みがあっても、その時点では取引案件がなく、潰れそうな会社ってあるんですよ。普通は経済的な状況で判断しますが、我々は本質的な強みで評価して、支援することができる。

佐藤 案件がなければキャディが出せばいいわけですしね。

加藤 その通りで、売り上げを作ることは銀行にはない機能です。だから我々は本質的な強みを評価して、与信を高められる。そこが私たちの会社の強みです。今後はファイナンスという形でも、我々の持つ価値を最大限生かしていきたいと思います。

加藤勇志郎(かとうゆうしろう) キャディ代表取締役
1991年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒。2014年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。16年同社史上最年少でマネージャーに。17年米国アップルのエンジニアだった小橋昭文CTOとキャディ設立。19年Forbes JAPANの「世界を変える30歳未満の日本人」に選出される。21年80.3億円の資金調達に成功し話題となる。

週刊新潮 2022年4月14日号掲載

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