部品の受発注を最適化して製造業を変える――加藤勇志郎(キャディ代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

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独自アルゴリズムで原価計算

加藤 日本の製造業は、多重下請け構造になっています。まず元請会社があり、その下にティア1(1次下請け)、ティア2(2次下請け。ティア1へ部品を供給)と階層化されていて、上位の会社に言われたことをその通りにやるのが一般的です。この構図の中で、昔は大量生産で同じものを作り続けていればよかったのですが、今は部品の多品種少量化がどんどん進んで、小回りが利いてニーズに合わせることを求められるようになりました。発注側は何百、何千とある品種ごとに注文を出すのは大変なので、古くからの付き合いのあるところに一括して頼んでしまいます。すると町工場は得意でない仕事もやらねばならなくなり、コストのみならず、作業でも無理が生じてくるんですね。

佐藤 それでも町工場は頑張って何とかやり遂げてきた。

加藤 ええ。ただこうした構造にあるので、下請けの町工場は、発注元1社に依存する割合が非常に高い。それは変動するリスクを被りやすいということです。

佐藤 日本の製造業の構造的な問題がそこにある。

加藤 でもどの町工場にも得意な分野がある。だからその得意な分野に集約して、幅広い発注元から仕事が来るような仕組みを作れば、コストも抑えられ、どちらも幸せになると思ったんです。

佐藤 アイデアとしては非常に素晴らしいですが、それをどう事業化していったのですか。

加藤 受発注のミスマッチをなくすために重要なのは、原価計算の仕組みを見直すことなんです。先ほど申し上げたように部品は多品種少量化しています。発注側はいろんな町工場と相見積もりを取って決めていきますが、オーダーメードの部品なので原価はバラバラだし、町工場の方でもきちんと詰めきれなくて、結構適当にやっているところが多い。また、双方とも見積もりに費やす時間が十分にありません。

佐藤 町工場はモノを作るのがメインの仕事で、見積もりは空き時間にやることになるでしょうね。

加藤 しかも見積もりに時間をかけても平均受注率は2割ほどです。ですから我々は、それをロジックに基づいて最適な原価計算ができるようにしました。図面を読み込み、材料費はいくらで、この機械を何秒使うからここはいくら、そこに人が何分間か張り付くから人件費はいくら、と細かく分析して、適正な原価を積み上げていくのです。

佐藤 それをコンピュータでやるのですね。そのアルゴリズムを作った。

加藤 図面データを数百から数千枚まとめ、自動解析を行って原価計算と納期を算出します。そしてQCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)が最適な加工会社がわかる。発注側は、何百、何千もの部品の調達作業が激減するだけでなく、コスト削減になりますし、受注側の町工場は見積もりにかける時間がなくなり、得意分野での注文を安定的に受けることができるようになります。

佐藤 画期的ですね。もっとも、それが登場するのが遅すぎたという面もあるかもしれません。いまや寿司屋のネタだって、かなり高級な店でも値段がきちんとついています。時価やお志で、という業種はほとんどない。その点で、製造業の発注の世界にようやく明朗会計が導入されたことになります。

加藤 この事業を始めてわかったのですが、なぜ発注に価格差が出るのかというと、不信とバッファ(緩衝)なんです。どうせもっと安くしろと言われる、後から早くしろと言われる――と考えているから、ちょっと高めに出しておこう、期間を長めにとっておこうというバッファにつながる。

佐藤 そこから抜け出すのは大変でしょう。

加藤 我々は町工場にも発注元にも、「駆け引きをしない」ことを最初に伝えています。結果的にその方が買う側も売る側もいいはずなんです。ただ、1社だけがバッファをなくしますと言っても損するだけですから、やはりプラットホームとして横断的にいろんなプレーヤーと取引している我々がやらなければならない。

佐藤 これまでの商慣習を打ち破ることになりますから、それは外から来た人こそが適任です。

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