部品の受発注を最適化して製造業を変える――加藤勇志郎(キャディ代表取締役)【佐藤優の頂上対決】

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QCDに責任を持つ

加藤 最初はこの原価計算のソフトウェア自体を提供しようと思っていたんです。今でも売ってほしいと言われることがありますが、みんな適正な価格を知りたいんですよ。これまでは相見積もりで、その中から安い工場を選ぶしかなかったわけですから。ただそのツールがあったとしても、工場側がそんな原価は知らない、ウチはこの金額でしかやらないと言ったら調達できません。だから我々がQCDの責任まで持つ形で事業展開しなければいけないんです。まあ、ここは非常に重たいところですが、あえて自分たちでやることにしました。

佐藤 一般的なITベンチャーならソフトを売っていたでしょうね。

加藤 マーケットプライスとかプライシング(価格戦略)といった概念のなかった世界に、インテリジェントな購買システムを持ち込んだわけですが、本当に仕組みを変えようと思ったら、ソフトだけですむ話ではないですよ。

佐藤 ただ、品質管理だけでも、すごく手間がかかるでしょう。

加藤 創業間もない頃、東大阪の町工場を回って、同じ部品を3社に注文したことがありました。でも塗装の薄い部分があったり、穴の大きさが違ったり、寸法通りでないなど、どこも品質不良だったんです。だからその日はホームセンターでやすりを買ってきて、一番直しやすかった、穴の小さな不良品をひたすら広げて納品しました。あの時、品質管理の大切さを身をもって経験した。ですから品質管理では東京と大阪に検査拠点を置いています。

佐藤 ある意味で現場も抱えているわけですね。

加藤 一台の工作機械を作るには、3千~5千点の部品が必要です。その中でネジ一本でも不良だったら、機械が組み上がらない。機械が動かなければ、その工程も止まり、工員も動けません。一本のネジの最終的なインパクトはものすごく大きい。だから、マッチングして「結果的に不良でした、あとはどうにかしてください」ということなら、少々高くても今まで付き合ってきた工場に出した方がいいということになってしまうんですよ。

佐藤 当然そうなるでしょうね。

加藤 我々は「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを掲げています。それには、すべての取引に入ってQCDを担保しないと意味がないんです。

佐藤 パートナーの町工場はそれをよく理解して、キャディに自分たちの未来も製造業の未来も託したいと考えているのでしょうね。

加藤 我々のパートナー工場は、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期導入者)と呼ばれるような新しもの好きで、世の中がこういう方向に行くなら、きちんとフォローしていくという方が多い。日本の町工場全体の社長の平均年齢は60歳を超えていますが、我々のパートナーの社長さんは40歳前後です。2代目3代目か、自分で起業した人たちで、この先20年、30年と経営していかなければならない。いま経営環境が大きく変わり、自分たちだけでは対応できないことがある中で、小社を見つけて一緒にやりたいと考えていただいたのだと思います。

佐藤 現在、どのくらいパートナー工場があるのですか。

加藤 いまは数字を出していないのですが、パートナー工場は数百社、発注元は数千社になります。

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