白旗状態の検察が不自然な「味噌漬け実験」を行った“本当の狙い”【袴田事件と世界一の姉】

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カギ握る再現実験

 保険金目的で内縁の夫とともに娘を焼死させたとし、約20年間、囚われの身となった青木惠子さんの弁護団は、長野智子キャスターが冤罪と確信してくれたテレビ朝日の助力を得て大がかりな再現実験をした。

 実験では、ワゴン車の給油口から漏れて流れてきたガソリンが風呂釜の種火に引火すると、夏の暑さで気化しているガソリンは瞬時に燃え上がった。これにより「ポリ容器の7リットルのガソリンを撒いてターボライターで火を着けた」と自供したという内縁の夫が火傷をしないことは考えられないことが判明する。大量のガソリンに至近距離から着火すれば本人の命も危ないのだ。

 昨年12月、大阪市北区で医師ら26人が亡くなった放火事件では、死ぬつもりだったようだが犯人は焼死した。2019年、36人が亡くなった京都アニメーション事件では、放火犯は大やけどで生死の境をさまよい命はとりとめた。青木さんは「この事例も本田裁判官に話したら、うなずいていたのに」と語る。

 東住吉女児焼死事件では、検察側も追随して独自に実験したが全く同じ結果になってしまった。これで青木さんは釈放されて、再審無罪となったのだ。

 愚かなことに青木さんの件では筆者は「直接証拠とは言えない再現実験で、再審無罪は難しいだろう」と考えてしまい、取材も出遅れた失敗がある。一方、袴田事件は現在進行形の「味噌漬け実験」である。検察は弁護団の結果と違う結果を出そうと必死になっていたが、敗色濃厚である。

 今回の三者協議で、裁判官が「自分の目で見たい」と言ったのは重要だ。写真では光源などの具合で色合いが微妙に変わることもある。再現実験が再び雪冤に繋がるか。大善裁判長の眼が節穴でないことを祈りたい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

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