白旗状態の検察が不自然な「味噌漬け実験」を行った“本当の狙い”【袴田事件と世界一の姉】

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鑑定人も示せない検察

 さらに「実験の条件が違うことについて、裁判所は指摘しなかったのですか?」と訊くと、笹森弁護士は「裁判官は『味噌タンクには8トンの味噌が入っていたんですよね』と言いましたよ」と話した。

 検察は、味噌タンクの実際の状況とは遊離した実験条件を作り出して意図的に嫌気性(酸素が薄い状態)を高めて、血痕が黒褐色になる反応が進まないようにしているようにしか見えない。実際の味噌タンクは、落し蓋をして重石を乗せて1年間放置し、「天地返し」と言われるかき混ぜもしない。それでも、うまくいっていないのだ。どう見ても茶褐色か濃い臙脂色の程度だ。

 弁護団の小川秀世事務局長が立ち上がってカラー写真を見せながら、「捜査報告書の写真は赤みが強かったが、データをプリントすると9月に(実験を)開始した(血痕を付けたサンプルについて、)3月には赤みがなくなっている。検察が赤みが残っているとしたのは大量の血液を付けた時でしたが、こちらも6カ月経って、赤みが取れて紫色になっている。あと半年すればこれが黒褐色になっていくことは裏付けられるはず」などと説明した。

 弁護団は今後の協議で証人申請する2人の鑑定人を示し、大善裁判長も了承した。しかし、検察側は誰を申請するかも示さなかった。西嶋勝彦弁護団長は「検察側はどの鑑定人を呼ぶか、名前も出さなかった。自信がないことのあらわれでしょう」と話した。西嶋団長の弁護士登録は袴田事件が起きる前年の1965年。間質性肺炎を患い、酸素ボンベを手に車椅子で裁判所に駆けつける老弁護士の物静かな語りには、自信がみなぎっていた。

東住吉女児焼死の国賠訴訟

 三者協議の翌日の3月15日に、大阪地裁では「東住吉女児焼死事件」の冤罪被害者・青木惠子さん(58)が起こしていた国賠訴訟の判決があった。裁判長は昨年11月に「無実を認めた上、冤罪防止策を講ずる」などと、青木さんに寄り添った和解勧告案を出していたが、国(検察庁)と大阪府(大阪府警)はこれを受け入れず、判決に持ち込まれていた。

 本田能久裁判長は「虚偽自白をさせた警察の取り調べは明らかに違法」として、府に1220万円の賠償を命じた。一方で、検察については「違法とまでは断定できない」と、国の賠償責任は認めなかった。青木さんは「今度の裁判官からは絶対にいい判決をもらえる」と筆者にも語っていた。裏切られた思いの青木さんは法廷で立ち上がって、持ってきた本田裁判長宛ての感謝の手紙を破り捨てた。記者会見では「本田裁判長は和解案を出してくれ、普通の支援者のように話しかけてくれた。まさか国の違法を認めないとは思わなかった。裁判所というより一人の人間として(本田裁判長に対して)不信感を持ち、また人間不信になってしまった。坂本(信行)刑事が私を傷つけたことは認めてもらったけども、反面、裁判所が私を傷つけていると言いたい」と話した。そして「負けたような気持ち。検察は反省しておらず怒りしかない」と気持ちが収まらなかった。

 袴田事件と東住吉事件。この2つの冤罪事件、前者は真犯人が起こした殺人事件、後者は事故を強引に事件とされたものであり、性格は全く違うが、1つ共通するのが再審無罪に向けての「再現実験」である。

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