貧困家庭育ちの42歳男性 “愛よりカネ”で上司の娘と結婚も、捨てた恋人からの告白にぼう然

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「自分の心に忠実に行動する」のはいいことだと思われているし、実際、そのほうが後悔せずにすむかもしれない。だが、相手のあることなら話は別だ。相手の気持ちを考えずに自分の欲望を優先すると、あとから大変な目にあう可能性は高い。【亀山早苗/フリーライター】

「40にして惑わずなんて嘘ですよね。40代になってからひたすら惑っています」

 そう言って苦笑するのは、若林岳さん(42歳・仮名=以下同)だ。彼は今、広い2LDKのマンションにひとりで暮らしているが、近いうち出ていくつもりだという。こうなったのも、自分の欲を優先させ「バチが当たった」と思っているそうだ。

 彼が結婚を意識したのは29歳のとき。相手は岳さんの勤務先から2軒隣のビルの薬局に勤めていたひとつ年下の彩菜さんだった。腰痛だの頭痛だのと体調不良に見舞われるたび、彼はその薬局で薬を買っていた。医者に行く時間などとれないほど多忙だったからだ。親身になって薬を選んでくれたのが薬剤師の彩菜さん。顔を合わせるうち、彼は彼女を意識するようになった。途中からは薬など必要ないのに薬局に通った。

「この前もこの薬、購入されましたよねと言われて、『どうしてもあなたに会いたくて』とアプローチし、デートにこぎつけました。それからつきあうようになったんですが、見た目がタイプだった上、つきあってみると性格もよくて心から惚れ込みました。結婚しようと言ったら彼女もすぐにうなずいてくれて。彼女とならいい家庭が作れるはずだと感じました。僕はいい家庭を作らなければいけなかったんです」

 彩菜さんが薬剤師というのも結婚の大きな決め手だった。もし自分に何かあっても薬剤師なら食べていくには困らないだろうという計算だ。というのも彼自身、貧困に近い家庭で育ったから。「貧乏は嫌だ」というのが彼のエネルギー源になっていた。

「オヤジがろくでなしの酒飲みでギャンブル依存。おふくろはそんなオヤジと別れることもできず、スナックで働いていました。夜中によく酔って帰ってきてオヤジに殴られていた。だけどそのうちふたりでいちゃいちゃし始める。共依存関係だったんだろうと今はわかりますが、最低の家庭環境だったと思う。オヤジがギャンブルでいないとき、おふくろは家に男を引っ張り込んだりもしていました。それを知ったオヤジがまたおふくろを殴る。殴られたおふくろがオヤジにしがみつき、そうこうしているうちにオヤジがおふくろにまたがる。僕がいる前で始めるわけですよ。ふたりとも人じゃない、動物なんだと思うようにしていました」

母に対する反感で抱いた「家庭」へのあこがれ

 小学校4年生のとき、父親が交通事故にあった。ケガは足の骨折程度だったのだが、入院して寝ついたのが原因なのか、退院間際に脳溢血を起こして亡くなった。「交通事故と脳溢血との因果関係が証明できず、たいした賠償金は支払われなかった」と母が嘆いていたのを彼は記憶している。岳さんは母とともに、ひとり暮らしをしていた母方の祖母の家に身を寄せた。この祖母がしっかりした人で、幼い岳さんに「あなたはちゃんと大学まで行きなさい。お金はあるところに預けてある。もしおばあちゃんが死んだらここに連絡しなさい。おかあさんには見せてはダメだからね」と封筒を渡されていた。祖母は賠償金を貸金庫に保管し、弁護士に孫の後見人を依頼していたのだ。

「あとから知ったのですが、オヤジは酔ってはいたけどちゃんと青信号で道を渡っていた。そこへ免許取り立ての若者の車が突っ込んできたようです。先方の親が恐縮して自賠責保険プラスアルファを支払ってくれた。窓口になったのは祖母で、自分の娘である僕のおふくろは金があるとどうせ浪費するから僕のためにとっておこうと決めたらしい。祖母は母に賠償金はほとんどないと伝え、それに腹を立てたのか、おふくろはあまり家に帰ってこなくなりました。日常生活は祖母の年金だけだったから、相変わらず貧乏だった。僕が高校に入ったころ、ばあちゃんが亡くなったんです。弁護士に連絡したら200万円ほどのお金があるとわかりました」

 以来、彼はアルバイトをしながら生活し、塾や予備校にも行かずに受験勉強をして現役で有名私大に合格した。だが学生時代もカツカツの生活で、後半は奨学金も借りた。年に数回、母親が顔を見せたが、彼はゆっくり話すこともなかった。祖母に自分を預けたまま帰ってこなくなった母を恨んでもいた。しかも時間があればアルバイトをしなければ暮らしていけないのだ。ようやく人心地ついたのは就職して初めての給料をもらったときだった。

「これでとりあえず生活できる。ホッとしたのもつかのま、僕が就職したことを知ったんでしょう、母親が急に自宅で暮らすからと入り込んできたんです。しかも『生活のめんどう見てよ、息子でしょ』と。今まで親らしいこともしないでなにを言ってるんだとしか思えなかった。それで僕は家を飛び出しました」

 会社の借り上げマンションがあったのでいくばくかの家賃を払いながら、そこで暮らすようになった。母には就職先も携帯電話の番号も知らせていなかったが、家にあった書類からばれ、会社に電話がかかってきたり待ち伏せされたりした。それでも彼が情に引きずられることはなかったという。

「自分で冷たい人間だと思いました。おふくろにはまったく共感も同情もできなかった。それだけに僕は結婚して完璧な家庭を作りたいと思っていたんです」

 そんなとき彩菜さんと知り合ったのだ。彼は結婚を急いた。

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