貧困家庭育ちの42歳男性 “愛よりカネ”で上司の娘と結婚も、捨てた恋人からの告白にぼう然

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出世欲が選んだ相手

 ところが彩菜さんの家に結婚の挨拶に行くと、親のことを聞かれた。父はすでに亡く、母はひとりで暮らしているが行き来はないと答えると、彩菜さんの両親の顔が曇った。

「実はすでにあなたのことは調査してある。苦労して育ったようだねと彩菜の父親に言われました。それが蔑むような目つきだったのでショックでした。育った家庭は僕が選んだわけではないから、どうしようもない」

 彩菜さんは「両親がなんと言おうと私はあなたと結婚する」と言ってくれたが、彼の気持ちは萎えつつあった。

「そんなとき、勤務先の専務から『私の娘と会ってみないか』と言われたんです。専務は僕が新卒で入ったときに直属の上司としてかわいがってくれた人。その後、出世して専務になったんですが、仕事もできるけど人格者でもあって尊敬していました。彩菜とのことはあきらめていたので、専務の言葉にすがってしまったんです」

 専務の娘と結婚すれば社内でも引き立ててもらえるという計算もあったと、彼は率直に言った。彩菜さんは薬剤師だった、今回は専務の娘。いずれにしても「お金に困るような生活だけは嫌だ」という彼の意図は明白だ。それが決していけないとは思えない。なにを優先させるかは人による。彼の場合は愛情と同じくらい、いや、それ以上に経済的なことが大事だったのだ。

「彩菜に黙って、専務の娘である由紀子と会いました。当時、30歳目前だったのですが、由紀子は2歳年上。専務も早く結婚させたかったんでしょう。ぽっちゃりした愛嬌のある人で、どことなく母性を感じました。オレにはこういう人が合っているのかもしれないと思ったので、3度くらい会って結婚を決めました。そして彩菜には一方的に別れを告げました」

 かつて直属の上司だったころ、岳さんは自分の身上を少し話したことがある。だが結婚をするにあたって、さらに詳細に話した。だからこそいい家庭を作りたいとも熱を込めて言った。義父となる専務は「きみには何の責任もない。これからが大事だ」と言ってくれた。

 その2ヶ月後には結婚することになった。結婚式の直前、彩菜さんからどうしても話したいことがあると言われたが、彼は「もういい」と電話を切った。

ようやく見つけた「自分の居場所」だったが…

 結婚式には母も呼ばなかった。岳さんの親族側は招待客がない状態。それを考慮して、義父は一般的な結婚式とは違い、席を新郎側、新婦側に分けずアトランダムに作ればいいと提案してくれた。

「堅苦しいのは苦手だから、立食パーティだっていいさと笑っていました。結局、名札もテーブルに置かず、来た人たちが好きな席に座る形式にしました。実際には僕側は学生時代の数人の友人と同僚くらいしかいない。あとは妻側、というより義父の招待客がほとんど。でもその人たちはいずれ僕も仕事でお世話になるかもしれないから、テーブルを回ってお酌したりしました」

 社長ももちろんやってきた。気分屋でワンマンの社長を専務が支えているような会社だったのだが、その日の社長はご機嫌だった。岳さんもここからがんばって出世するぞと心に誓ったという。

「新居も専務が用意してくれました。リビングが20畳もある広い2LDKで、正直言って怖くなりました。そんな広い家に住んだことがなかったから」

 妻の由紀子さんは料理が上手だった。褒めるとうれしそうに笑顔を見せる。読書も好きで、よく読んだ本の話を聞かせてくれた。父親を見ているせいか、「ビジネスマンはこういう本が好きよ」と内容を要約したメモを渡してくれることもあった。そのおかげで彼は相手に認められ、商談を成功させたこともある。

「生活のパートナーであると同時に、由紀子はビジネスパートナーでもありました。さすがは専務の娘と感心するくらいよくできた女性だった。ここが自分の居場所なんだとようやく思える場所ができて、生まれて初めて安心して生活することができたんです」

 だがひとつ問題があった。彼は妻と夜の生活ができなかったのだ。あまりに安心しすぎたせいか、妻に“母”を感じてしまったせいなのかはわからない。ただ、そもそも彼は性的ポテンシャルの高いタイプではないらしい。そこへもってきて「安心できる場所」ができたのだから、私生活においては情熱やアグレッシブな感情が抜け落ちていった。それらは仕事で使い果たしているともいえる。

「このままでは子どもができない。僕の考える完璧な家庭には子どもがいなくてはいけない。でもがんばってもダメで……。由紀子は優しいからそのたびになにも言わずに背中を撫でて抱きしめてくれる。まるで母親みたいに。泌尿器科に行ってバイアグラを処方してもらいましたが、そもそも性的欲求がないからたまにしか役に立たない。焦らないでと由紀子に言われれば言われるほど負い目が強くなっていく」

 子どもができなかったらどうしよう。その不安から逃れるように彼は仕事に没頭した。妻との関係は性的なことを除いてはうまくいっていた。義父はどこまで知っているのかわからなかったが、子どもについて尋ねてくることはなかった。

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