焼津「カツオ窃盗事件」は“第二幕”へ 「窃盗犯」を処分なしで勤務させ続ける漁協の呆れた隠蔽体質

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「水揚げが止まってしまう」

 この点を突っ込むと、「確かにそういう指摘も頂戴しています」と認める。ただ、それ以上については「捜査機関に委ねるしかない。証拠がないし、我々の手では無理。職員たちの話を信用したいという気持ちもある」と、匙を投げるようなことを言うのであった。

 さらに、中日新聞の報道によると、1月28日、漁協は第2回再発防止委員会を開き、漁協職員たちに「過去に不正行為をしていない」「これからも不正行為を行わない」旨の誓約書を提出させることを決めた。不正行為に関与したと内部調査で話している職員たちには「関与した不正行為はすべて組合に申告した」「今後、不正行為をしない」という内容の誓約書を求めるという。

 これを聞いた前出の所長はこう憤る。

「ウソをつき通した者はこれで逃げ切れるし、正直に告白したものは『よく言ったね』で済まそうとしているわけです。私たちの気持ちを考えてください。これからも、泥棒と一緒に仕事をしろと言われているようなものです。事件化する前の昨年9月、突然、焼津に水揚げしている船会社に1000万円の解決金を払うと言ってきたことがあった。水揚げ量に応じて分配するとかで、一方的に書面が送られてきたのですが、その時から隠蔽しようとする態度が見え見えでした」

 所長は、調査報告書の報告会があった際、漁協幹部に対し徹底した調査を求めた。すると、顧問弁護士はこう脅すようなことを言ってきたという。

「そんなことをしたら、水揚げが止まってしまいますよ」

子供たちにどう説明する?

 実は、こうした考えを持つ漁業関係者が焼津では少なくない。例えば、第一ルートに関与した運送会社は、いまも漁港内を走り回っている。「焼津漁港内の運送会社はこの一社しかないから、ペナルティを与えたるとみんなが困ってしまう」(運送会社関係者)。ある水産加工会社幹部は、過去に窃盗に関与したことがあるかと記者が問うと、肯定も否定もせず、「過去ではなく、二度とこのようなことが起きないように前を向いていくことが大事だ」と答えた。

 ある漁業関係者が打ち明ける。

「実は被害者側にもこれ以上、この問題を追及する必要がないと考えている船会社がいる。明らかに窃盗被害を受けているというのに被害届を出そうとしないのです。漁協は協同組合ですから、船会社の人間も入っています。狭い地域の中には血縁者も多い。そういうしがらみの中で、なあなあに済まそうという空気もある」

 焼津漁港で窃盗疑惑が持ち上がったのは今回が初めてではない。10年前、前述した当時の係長が主導で行っていた窃盗について、漁協に内部告発があった。だが、当時、漁協は適当な聞き取り調査だけで済ませて問題化しなかった。今回の事件を受けても、警察頼みで自浄作用を働かせようとしない漁協は、同じ過ちを繰り返そうとしていると言える。

 所長はこう訴える。

「焼津はオレたちだけの街じゃない。これからこの街を背負っていく子供たちもいる。こんな体たらくで、私たちはこれから子供たちに対して、泥棒をしてはいけないって当たり前のことを教えていけると思いますか」

 そして、「これはだたの盗みじゃないんです」と言葉を継いだ。

「表に出ているのは氷山の一角で、何十年も続けられてきた悪質な犯罪なんです。被害総額は億単位。過去に背を向けて、この街の再生なんてあるわけがない。でも、こんな当たり前のことを訴えようとも、なぜかいまこの街ではこっちが白い目で見られるんです。ほとぼりが冷めたら、泥棒たちはまたコソコソ動き出すに違いありません。水揚げが止まる? だったら止めたらいい。一度止めて、また一から新しい漁港を作り上げればいいんです」

 果たして、焼津漁港の闇はどこまで捜査機関によって明らかにされるのか。そして、焼津漁港は過去と決別できるのか。今後を注目していきたい。

デイリー新潮編集部

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