「44歳夫」が今も思い出すキャリア妻の不倫を察した瞬間 そしてタクシーの中で2人がしていたコト

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不倫をばらせば我が家も崩壊

 出社すると上司とばったり廊下で会った。おはよう、と上司は明るく言った。この人は若い頃からいつも上機嫌で、理不尽なことは言わない人だったなと思い返した。人望も厚い。理不尽なのは自分の妻との関係だけだ。

「もし僕が妻と彼との関係を暴露したらどうなるんだろうと考えたこともあります。いっそそうやってすべて崩壊したほうがいいのかもしれない。だけどそうしたら我が家も崩壊するんです、義両親も娘も含めて。それは僕には耐えられない。大人ふたりの恋愛を邪魔する権利が自分にあるのかとも考えました。夫婦であっても一個人同士ですし、僕は今まで妻の意志を阻害したくないという思いでやってきた。仕事は好きなようにやればいいよと応援しながら、恋愛は阻止するのか。もう何が正しくて何が間違っているのか、自分はどうしたいのかさえわからなくなりました」

 今すぐ結論を出す必要はない。それが当時の彼の結論だった。以来、妻の態度は変わりないし、上司の態度も変わらない。ただ、妻は今もときおり出張に行くし、ときおり帰宅が未明になる。

「そしてときおり、妻の部屋の前を通ると電話で話しているような声が聞こえることがあります。でも週末はほとんど家にいるし、コロナ禍で在宅勤務も増えた。ただ、僕は一時期、ほとんど自宅で仕事をしていましたが、妻は週に数回は出社していましたね。特別な仕事があるのよと言っていたけど、本当かどうかはわかりません」

 雄浩さんは、たまに「ふたりの関係はいつから続いているの? もしかしたら結婚前から?」と妻に問い正しくなるのを感じている。いつかポロリと口から出てしまうかもしれない。だが今のところは自制心が働いている。

「それを言った瞬間、すべてが終わるから。11歳と7歳の子に悲しい思いはさせたくない。義両親も70代に入りました。まだまだ元気だけど、この先、何があるかわからない。この家だけは、家族だけは守りたい。そのためには僕が黙っていればいいだけのこと。日々、そう自分に言い聞かせています」

 それでも不思議なのは、嫉妬はあるのに妻への憎悪がわいてこないことだという。妻がキラキラと輝いているのは「上司の直接的な寄与」ではなく、妻自身の内部からのきらめきだと彼は思っているのだそうだ。愛情が彼をそう思わせているのか、あるいはそう思わないとやっていけないだけなのか。少し疲れた、だが何かに耐えているような彼の横顔を見ながら、なんとも言えないせつない気持ちになった。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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