奄美大島「ジュラシック・ビーチ」の危機に立ち向かう仏男性 運命を変えた“グーグル検索”

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アマゾンのような自然の中で…

 だが、日本在住のイギリス人女性と出逢い恋に落ちたことがきっかけで、彼女と共に再びフランスへと戻った。サーフィンが楽しめるバスク地方で数年を過ごしたのちパリへ。新興企業で働き始めたが、「マクドナルドやピザを食べてばかりいるつまらない連中」だと感じ決別。最終的に、映像・写真データーバンクの製作会社「フォトアルトー(Photo Alto)」に就職した。パリ中心部のカナル・サン・マルタンにあるこの会社で、ITプログラマーとして働き始めた彼は、楽しく人生のキャリアを歩むことになるが、35歳の時にふと子供時代の夢を思い出した。

「アマゾンのような自然の中で人生を過ごすんだ!」

 サーフィンができる世界中の島を、引っ越し先の候補にした。探し方はジョン・マークならではの方法で、「グーグル・アース検索」で空から現地を観察するというものだった。

「グーグル・アースは嘘を付かない。画像で全部そのままが見える。人の意見とか評価とかの書き込みは信じない」

 仏領ポリネシアのタヒチ島、マルキーズ諸島、西インド諸島のグアドループ……インドネシアなど東南アジアの島々も見た。

「世界の多くの島に共通する問題に、治安の悪さや貧富の格差、そして教育レベルの低さがある。太平洋に天国のような離島を見つけても、白人セレブが買い占めてしまっている。いろいろと見ているうちに、もしかしたら日本もいいかもと思ったんだ」

 まずは沖縄を空から見たが、「ほとんどが人工的な海岸ばかり。こんなきれいな島の海岸線をコンクリートが台無しにしてしまった」。次に、外国旅行者に人気の高い屋久島を見るべく拡大カーソルを沖縄から引いていったその時、たまたま奄美大島が目に留まった。

「奄美を見てびっくりした。ただの沖縄の小さいサテライトだと思っていたら、結構大きいことがわかった。コーストライン(海岸線)も多い。サンゴも見える。もっとも驚いたのが、上から見ると島が緑豊かなことだった。他の島を上から見ると、緑はあっても農業などで伐採されていることがわかる。でも、奄美はほとんど緑のジャングルだ。『あれ、山々が見えて、川が流れているな……』と感じ、そして“嘉徳浜”を見つけたんだ」

 この写真が、ジョン・マークの運命を大きく変えることになった。

「嘉徳を見つけた時、とても感動した。海底の下に眠る砂洲が見えた。川が自然に流れていて、天然の河口があるのがわかった。それから、浜辺のアダン林の後ろに小さな集落が隠れるようにしてあった。ジャングルのど真ん中に集落が! これはあり得ない! インドネシアのスマトラにはこうした集落はあったけれど、そんな集落が日本にまだ残っているとは」

 2010年4月初旬、夜中3時のことだった。狂喜のあまり、寝室で眠っていたフランス人の彼女を起こしに走った(イギリス人の女性とは別れていたようだ)。「起きて! パラダイスを見つけた。自分のシャングリラを見つけたんだ。インドでよく言われる“神秘的な永遠の楽園”があったんだ!」。ジョン・マークは私に、当時の喜びのほどを興奮した様子で語った。

 写真を見つけてから10日後には、フランス人の彼女を連れて嘉徳浜へ向かった。そしてその年の10月には、この地への半永久的移住を決断することにした。フランス人の彼女はしばらく一緒に居たが、やがて母国に帰った。恋多き男である彼は、「自分だけのシャングリラ(奄美大島)」で、最後となるであろう“ファム・ファタール(運命の女)”に出会う。地元のネイチャーガイドをしていた奄美ボディ・ボード大会元チャンピオンの武久美さんだ。そして、半永久的移住を決断することに。

 嘉徳への移住を決めた5年後の2015年から護岸工事が始まった。ジョン・マークは久美さんと力を合わせ、精力的に反対運動を展開。17年から始めたネット署名には、約4万筆が集まった。さらに、100人近くの反対運動の参加者らが海岸に集い、「ユネスコ遺産はただのロゴではない」とか書かれたプラカードを掲げて抗議した。その模様はネット上に拡散もされた。21年11月にはジャーナリストの伊藤詩織さんらを招き、シンポジウムを開催。学者、ジャーナリスト、市民らを交え、自然保護に関して議論を盛り上げた。

 集落内での請願書署名活動にも力を入れた。個人情報が流出しないよう、無記名にするなど最大限の注意を払ったが、住民らの名前が建設会社関係者や工事賛成派に流出。反対署名した住民に圧力がかけられたこともある。

 ジョン・マークは2020年に、久美さんと2人で暮らす家を集落内に借りた。移住してからの生活は試練の連続だ。少年時代に夢に描いた「自然の中での自由な世界」とはかけ離れた過酷な生活である。ここ数カ月も、脅しを受け、神経をすり減らしているそうだ。

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