奄美大島「ジュラシック・ビーチ」の危機に立ち向かう仏男性 運命を変えた“グーグル検索”

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鎌による脅し

 昨年9月21日の夕方、ジョン・マークが集落内を歩いていると、70代の建設関係者の男性が車から勢いよく降り、凄い速さで走って来たという。手に持った鎌を振り上げ、「もし工事現場に入ったら鎌で切るぞ」と凄い剣幕で捲し立てたというのだ。

「黒い横長の鎌で、刃物の部分が二段になるものだ」とジョン・マークは振り返る。その場には取材に訪れていた米ニューヨーク・タイムズ2名の記者も居合わせており、10月13日配信の記事〈日本に残された手付かずの海岸が、コンクリートに埋め立てられる日〉でも、この出来事は触れられている。

 これ以外の脅迫についても、久美さんはメモに次のように残している。

〈10月3日 夕方5時頃、工事現場の嘉徳の砂丘で反対派の女性が集落の男性に鎌で脅された。同時に、集落の道路で近所の3人の男性がジョン・マークに嫌がらせをしていた。中の一人男性は片手にまた鎌を持っていた〉

〈12月7日 15:45分頃、砂丘の後ろにある自宅テラスに茶色の取っての鎌が置いてあった。自宅庭の桑の木の4本(枝)が切られていた〉

 こうした脅しはジョン・マークだけでなく、反対する集落の人々にも及んでいるという。ある方は私にこう話してくれた。

「護岸建設はやってはいけない。いけないことを十分わかっているんだけど、地域にお世話になっている以上、下手に大きな声で反対と言うと“村八分”にされる」

そもそも工事は必要なのか

 現在、地権者を含む12人が、鹿児島県と瀬戸内町に見直しを求める要望書を提出。12人のうち6人は嘉徳の住民だ。

 護岸建設の理由は、2014年に連続して襲った台風による打撃とされている。砂丘が侵食され、安全面の不安が募ったからだ。住民からの要請を受け、コンクリートの護岸堤に着手されたという経緯がある。

 県は私の取材に「地元代表、役場、環境専門家などを交えて検討委員会を開き、これ以外の方法論も考えたが、最終的にコンクリート護岸に落ち着いた。台風、高潮、波浪など外力から住民らを守るには、180メートルのコンクリート護岸が必要だとの意見になった」としている。

 その一方で、年々、砂丘は復活していることが、市民調査で確認されている。

「海先生」として知られる九州大学工学研究員環境社会部門の清野聡子准教授も、YouTubeチャンネル「savekatoku」で、

「県による護岸建設を裏付ける調査が十分でない。調査は短期間で荒く、方法論として十分でない」

 と護岸計画を一蹴する。むしろ、嘉徳で古くから続いている自然防波堤をこう褒めたたえるのだ。

「海側にアダン、陸側にソテツを植えると、風が運んできた砂がアダンの根元に定着して、砂浜が出来、浜そのものが膨らんできています。地域の人たちは特性を熟知し、こうした植物を植えてきたわけです。嘉徳はそんな伝統的知恵が見られる場所。Eco-DRR(生態系防災)を昔からやっていたわけです。それを壊すというのは、世界ユネスコ遺産のバッファーゾーン(遺産周囲の利用制限区域)では考えられません」

 バッファーゾーンである嘉徳地区は、ユネスコの諮問機関から審査を受ける対象である。機関に対しジョン・マークらは「原始的な砂浜や景観を守ってほしい。現在の護岸計画は生態系に莫大な影響を与える可能性があり、豊かな自然を守りながら高波対策ができる代替手段を提言してほしい」との声明を提出した。

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