麻布、開成…中高一貫校でコロナ世代に起こった“奇跡”とは オンライン文化祭などで見せた驚異の適応力

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先行き不透明な時代を生きる実地訓練

 東京都など多くの地域で一斉休校が長引いた際には、「9月入学への移行」が検討される一幕もあった。時計の針を巻き戻そうという話である。

 子どもたちから奪われた機会を取り戻してあげたい気持ちは痛いほどにわかるが、そもそも教育課程は、そのときどきの子どもの発達を考慮して決められている。コロナ禍だろうが子どもは毎日成長しているわけで、小学1年生のための遠足を小学2年生の年齢になってから行うのでは、意味合いが異なってしまう。9月入学への移行は、そういう現実を無視した安直な案だった。

 このような世界的災禍において大切なのは、失われた過去を取り戻すことよりも、ある意味で気持ちを切り替えて、いまできることや、これからすべきことに意識を集中することであるはずだ。いま大人は、そういう姿勢こそを、子どもに見せるべきだろう。

 君たちは先行き不透明な時代を生きなければならないから、探究的学習が大事だとか、学び続ける力が必要だとか、だからこそ大学入試改革を行うのだとか……。これまで大人たちは散々子どもを脅してきた。しかし期せずしてコロナ禍が、子どもたちにとって、先行き不透明な時代を生きる実地訓練となった。

 そこで子どもたちは大人顔負けの適応力を発揮した。それは子どもが子どもであるがゆえの「才能」である。

 彼らが失ったものばかりでなく、彼らがこのコロナ禍で得たものにこそ光を当て、それを社会として大事に育てようではないか。

 彼らは、「IT知識と語学力を駆使し、いつでも誰とでもつながれる世代」であり、「慣例となっていたものに対して疑いをもてる世代」であり、「できないことを嘆くのではなく、できることを探して実行できる世代」であり、「ともすれば当たり前の日常として通り過ぎてしまうものの本当の大切さを、身をもって知ることのできた世代」なのだ。ポジティブな意味でコロナ 世代と呼ばれてほしい。

おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を務める。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『受験と進学の新常識』(新潮新書)など著書多数。

週刊新潮 2021年12月16日号掲載

特集「『麻布』『開成』『豊島岡』『おう友』『東大寺学園』…中高一貫校で起こった『コロナ世代』の奇跡とは あなたの子どもにもできる『課題』『イベント』」より

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