脳死状態で生まれた娘を10年育てた父親 今も不信が募る病院や医師の対応、そして苦悩の日々を告白

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「私の子どもは出産時のトラブルで、脳死状態で生まれてきました。現在も意思の疎通はできず、自発呼吸すらありません。生まれてから10年間、人工呼吸器をつけて生きています」――そう話すのは、現在10歳になる近藤彩名さん(=仮名)の父親・孝さん(43=仮名)だ。【中西美穂/ジャーナリスト】

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 もし彩名さんが元気に生まれてきていたら、小学校4年生として地域の学校に通い、楽しい日々を送っていたことだろう。しかし、出産時のトラブルから重度仮死状態で生まれ、脳に非可逆的なダメージを受けた。結果、10歳になる今もベッドの上で寝たきり生活である。

「医療的ケアも多いので在宅で見ることができず、生まれてからずっと施設にお世話になっています。コロナの影響で面会できなくなる前は、私自身は月2回から3回、家族は月1回の頻度で会いにいっていました」

 現在、彩名ちゃんが暮らす障害児施設には、医療的ケアが必要な子どもたちが多数入所している。

「看護師さんはじめスタッフの方々が、たとえ話しかけても何の反応も示さない彩名を、ちゃんと一人の子どもとして見てくれていて、とても嬉しいですね」

 その口調はあくまで優しい。ここに来るまでどれだけの苦労や葛藤があったのだろう。

「正直、今でも病院に対して納得いかない部分が大いにあります。妻が妊娠中は、初期に少し出血があったものの、特に大きなトラブルはありませんでした。予定日を過ぎても陣痛の気配がなく、赤ちゃんが早く降りてくるようにと、妻が階段の上り下りをしていたのを思い出します。ちょうど引っ越したばかりで、家具が揃っていないだだっ広いリビングにベビーベッドだけ用意して、夫婦で床に座って食事しながら誕生の日を心待ちにしていました。お腹の子はポコポコと妻のお腹を蹴ったりして、元気に動き回っていたんです。この子の運命が変わってしまったのは、本当に出産直前だったんです」

 妊娠、出産。誰しも心配はありながらも、赤ちゃんは元気に生まれてくるものだとどこかで信じている。しかし、不幸にも障害を持って生まれる子がいる。

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