日本が“無謀にも”米軍と開戦した理由に迫る 日本陸軍・謀略機関の「極秘報告書」を発掘

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イギリスだけなら勝つことはできなくもない、と分析できたが……

 したがってイギリスだけならば勝つことはできなくもないとも読めるのですが、よく考えるとアメリカは第三国に対しても多くの支援をできるくらい国力に余裕があるわけですから、仮にイギリスの植民地が全て奪われたり、本国との交通が遮断されたりしたとしても、アメリカがイギリスを支援し続ければイギリスは屈服しません。

 イギリスが屈服するとすれば大西洋上でアメリカからイギリスに物資を運ぶ船舶が大量に撃沈される場合ですが、当然、大西洋上の船舶を日本海軍は攻撃できません。

 当時すでにドイツ軍のUボートがイギリスの船舶を大西洋上で盛んに攻撃しており、それによりイギリスが苦境に立たされていることは日本でも報道されていました(したがって「英米合作経済抗戦力調査」の内容はそれほど目新しいものではありませんでした)。

 問題は独ソ戦(1941年6月勃発)に突入したドイツが引き続き国力を維持して大西洋上でイギリスへの支援を絶つことが可能か、にかかっています。したがって重要なのは英米よりもむしろドイツの国力分析ということになります。

ドイツの限界

 やはり昭和16年7月に作成された秋丸機関の報告書「独逸経済抗戦力調査」では次のようなことが書かれています。

「ドイツの国力は既に限界に達しており現在のままでは来年から低下する。独ソ戦が極めて短期(2カ月程度)で終わりソ連の資源や労働力をすぐに利用できれば国力を強化できるが、万一長期戦になればドイツは消耗するだけになり敗北する。

 さらにドイツは仮に短期でソ連に勝利できてもなお不足するマンガンや銅、クロムを入手するために南アフリカに進出し、さらにスエズ運河を確保して東アジアと連絡を維持する必要がある。

 日本は独ソ戦の結果、英米ソから包囲されるので、南方の資源を確保すべきである」

 当時の日本ではナチスのプロパガンダの影響を受けて同盟国ドイツの国力を過大評価する傾向がありましたし、ナチス上層部と親しかった大島浩駐独大使もドイツ優位との情報を日本に送っていました。そうした中、秋丸機関はドイツの国力の限界を非常に冷静に分析していました。

 それと同時に、報告書の回りくどい表現からは、陸軍内部の研究組織だった秋丸機関は、陸軍の意向に反する報告を出しにくかったこともわかります。

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