「ゴルゴ13」が予言していた「原発事故」「神戸製鋼品質不正」 日本企業の危機管理の失敗例

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開き直ったブラック企業

 そこでこの役員をモデルにして、経営幹部がイベントで人種差別的な失言をしたことで社会から批判を浴び、事業にも影響を及ぼすというトレーニング用のシナリオを作成した。しかし、それをもとにしたメディアトレーニングが活かされることはなく、数年後、この役員はネットのイベントで本当に失言をして炎上、会社を去った。

 このような話を聞くと、読者諸兄はきっと不思議に思うだろう。せっかく起きそうなシナリオをメディアトレーニングで経験しているのに、なぜそれを回避できない企業があるのか、と。

 ここにこそ、日本企業の危機管理の構造的な弱点がある。実はメディアトレーニングに限らず、企業内ではさまざまな方法で、「このまま放置していたらいつか大問題になる」というリスクを予測していることが多い。しかし、わかっちゃいるけど避けられない。「社内論理」を優先するあまりリスクから目を背けてしまう企業も少なくないのだ。

 先とは別のサービス企業の経営者を例に説明しよう。トレーニングのシナリオを作成するため、SNSやネットを調べてみると、この店で働くアルバイトの方たちが、社員の高圧的な指導にかなり不満を抱いていることがわかった。そこで、元バイトが同社をブラック企業だと告発してくるというシナリオをつくって模擬の会見をしてみたが、経営者は徹底抗戦の姿勢を貫いた。社員がアルバイトを厳しく叱責するのは指導の一環であり、自社に非はないと主張したのだ。このような考え方では近いうちにトラブルが表面化する恐れがあると指摘したら案の定、トレーニング後すぐに、この企業はブラック企業だと指摘され世間の批判にさらされた。経営者はともかく、幹部社員の多くはある程度そうなることは予想していたはずだ。しかし、誰も経営者に「それは違うんじゃないですか」と苦言を呈することができなかった。「トップへの忖度」は、危機管理で最も避けなくてはいけないことなのだ。

社長に忖度してシナリオが没に

 これは、あるエンターテイメント企業にも当てはまる。創業社長が主導して、「日本初」の画期的な技術を持つバイオベンチャーと提携し、食の安全に関する事業に新規参入した。初めてのチャレンジなので、批判されることのないようにメディアトレーニングをしてほしいという依頼だった。

 そこで調べると、このバイオベンチャーは過去、この技術を他社に提供して、同じように「日本初」をうたっていたが結局、実用化にいたらず頓挫していたことがわかった。この過去がバレたら、このエンターテイメント企業が掲げる「食の安全」にも疑いの目が向けられてしまう。そこで筆者はこのリスクを知らせようと、バイオベンチャーの過去をそのままシナリオに盛り込んだ。が、担当者によってボツにされてしまった。

 実は社内でもこのバイオベンチャーがリスキーだという認識はあったが、そのようなことを口にしたら社長が大激怒してしまう。そこで、幹部はみなイエスマンとなって盲従しているというのだ。結局、トレーニングは当たり障りのないシナリオで実施されたが、数年後にバイオベンチャーとの提携は解消された。

 すっかりケチがついた「食の安全」事業はその後も迷走を続けて解散。悪いことは続くもので、エンターテイメント企業が運営する施設で、食中毒が発生してしまった。創業者の鶴の一声で始まった「食の安全」事業はここで完全に終焉を迎えたのだ。

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