「ゴルゴ13」が予言していた「原発事故」「神戸製鋼品質不正」 日本企業の危機管理の失敗例

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危機管理を担うべき部署

 このようなケースは、危機管理の現場では決して珍しくない。むしろ、極めてオーソドックスな話だ。社内で多くの人が「危機」を予見していたにもかかわらず、「上」の逆鱗に触れるのを恐れて沈黙してしまう。「回避できた危機」が、組織人の保身や忖度のせいで、現実のものとなってしまうパターンが、不祥事企業には圧倒的に多い。

 そこで、筆者が企業に提言しているのは、危機管理は「経営者にモノ申せる立場」が窓口となることだ。社長の懐刀、長年支えた秘書、あるいは盟友的存在の役員でもいい。立場は会社によって異なるが、とにかく社長にしっかりとリスクを伝えて、耳の痛い提言もできるような関係性のある人間だ。

 これまで本稿で見てきたように、人間関係など組織内の事情に左右されない「外部の専門家」による危機の予見は高い精度で的中する。しかし、そのシナリオを企業側に伝えても、その相手に組織内での発言力がないと途中で握り潰されてしまう。保身や忖度によって、経営者まで情報が上がらないのだ。

 例えば「面倒事は総務か広報が受け持つ」ケースが多いが、両部署は直接、収益を生む部門でないため、企業によっては軽んじられている場合もある。実際、ある企業の広報部が危機の予兆を察知したものの、営業出身の役員からの圧力でトップへの報告を見送ったケースがあった。このような事態を避けるには、直属の社長室などやはりトップに近い人・部署が危機管理を担当すべきだ。

 その上で、必ず「ゴルゴ13」の脚本のように、「外部の専門家」を活用する。内部の人間だけではどうしても自社の論理、都合のいいストーリーに固執してしまう。そうなると世間から顰蹙を買ってロクな結末にならない。

 企業の最大のリスクは、実は組織内部にいる人たちが自分ではなかなか気づかない「ムラ社会根性」なのだ。

窪田順生(くぼたまさき)
ノンフィクション・ライター/報道対策アドバイザー。1974年生まれ。雑誌や新聞の記者を経てフリーランスに。事件をはじめ現代世相を幅広く取材。広報戦略をテーマにした『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』等の著書がある。ライター業の傍ら、広報コンサルティングやメディアトレーニングも行っている。

週刊新潮 2021年12月2日号掲載

特集「“予言の書”『ゴルゴ13』に学ぶ 日本型『危機管理』失敗例」より

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