「ゴルゴ13」が予言していた「原発事故」「神戸製鋼品質不正」 日本企業の危機管理の失敗例

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研修の場で…

 なぜそう感じるのかというと、ライター業と同時に企業などの危機管理を仕事としている筆者も、これと似た経験があるからだ。「メディアトレーニング」で用いた架空のシナリオが、現実のリスクになってしまったことが何度かあるのだ。

 メディアトレーニングとは簡単に言えば、「記者会見の事前練習」である。社長をはじめ経営幹部が会見で、適切な説明や、誠意のある受け答えができるようになることを目的として、架空の危機シナリオに基づいた模擬の会見を設定。本番さながらに登壇して説明し、実際に記者役から質問を受けていく、という危機管理研修のひとつだ。

 ここで重要なのが、「リアリティのあるシナリオ」である。現実に起こりそうな事故、不正、不祥事などの設定をつくらなければ、登壇する側もいまいち身が入らない。そこでトレーナーは、その企業や業界を徹底的に調べ、時に記者や研究者という「外部の専門家」の意見も参考に、「いつ発生してもおかしくない危機」のシナリオを作成する。つまり、やることは「ゴルゴ13」の脚本制作とそれほど変わらないのだ。

 これまで300件以上のメディアトレーニングでトレーナーを務めてきた筆者もそのような作業を多く経験してきた。時には企業の担当者から「あまりに生々しくて社長が嫌がると思うので、もうちょっとソフトなシナリオに変えてくれませんか」とNGを出されるほど、「リアリティ」にこだわり続けてきた。そしてある時、それらのシナリオを振り返ると、「未来予測」になっていたものが少なくないことに気づいたのだ。

図らずも新型コロナの流行を予想

 例えば今から10年以上前にトレーニングしたある大手サービス業がわかりやすいだろう。シナリオを作成するため、社外取材や社内の聞き取りなどをもとに会社の潜在的なリスクを洗い出したところ、社長が主導で進めている新規事業に巨額損失が出る恐れがあることがわかった。また、海外事業に過度に依存していることも気にかかった。

 そこで、新規事業が大赤字となったところに、追い討ちをかけるように、世界的なパンデミックが発生、海外渡航も制限され、海外事業も大打撃を受けてしまう――というシナリオをつくった。

 当時、他社で新型インフルエンザの対応を手伝っていた関係で、感染症の専門家からこの方面のリスクをよく耳にしていた自分としては「危機意識を刺激するシナリオ」ができたと思ったが、企業側のウケは思いのほか悪かった。トレーニングを受けた社長からも「ちょっと現実的ではないね」というクレームを頂いた。が、後にこの会社は筆者のシナリオ通りになってしまう。問題の事業は恐れていた通り巨額損失を出し、海外事業も今回の新型コロナの世界的流行で壊滅的な被害を受け、現在、「経営危機」が囁かれるほどになってしまった。

 また、ある大手IT企業のメディアトレーニングも印象的だった。

 社内のリスクを洗い出したところ、ある役員の放言や暴言を心配する声が多く聞かれた。どうやらこの御仁は自分のことを毒舌で笑いを取るキャラだと勘違いしている節があり、日頃から社内で部下に厳しい言葉を浴びせていた。本人はイジっているつもりだが、セクハラやパワハラではないかという心配の声も上がっていた。

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