「ゴルゴ13」が予言していた「原発事故」「神戸製鋼品質不正」 日本企業の危機管理の失敗例

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神戸製鋼の品質不正問題も的中

 高度な特殊鋼技術を持つ鉄鋼会社が、中国企業から過去のスキャンダルをちらつかせられて、合弁会社をつくるように脅されるというストーリーなのだが、注目すべきはそのスキャンダル。なんとそれは、この鉄鋼会社が1965年以降、「規格外」の鉄鋼を基準を満たしているかのように偽って、火力発電所や原発にも納入していた、という「データ改竄」なのだ。

 これを聞いて、2017年10月に発覚した神戸製鋼の品質不正問題を連想しない方はいないのではないか。アルミ・銅製品を出荷する際、取引先が求める仕様に達していない製品を、現場で数値を改竄して納入していたこの不正行為は、発覚するまでこれを疑わせるような前兆はなかった。それを4年以上も前から予見していたというのは驚愕するほかないが、さらに衝撃を受けるのが、不正開始時期や納入先まで重なっている点だ。

 神戸製鋼の内部調査によれば、このデータ改竄は、「遅くとも1970年代以降」(「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」 神戸製鋼、2018年3月6日)から続けられ、改竄製品は、福島第二原発やウラン工場、九州電力の火力発電所の配管にも用いられていた。劇中のデータ改竄とまったく同じなのだ。

カギは「外部の専門家集団」

 さて、そこで気になるのは、なぜ「ゴルゴ13」の「不祥事予言」はここまで高い精度で的中するのかということだろうが、その秘密は「外部の専門家集団」にあるといわれている。実は「ゴルゴ13」のストーリーの骨格をつくっているのは、さいとう氏ではない。また、作品を分業制で担う「さいとう・プロダクション」のスタッフたちでもない。現役のキャリア官僚、科学者、銀行マン、広告マンなどさまざまな外部協力者が提供した情報をベースに、外部の脚本家が仕上げている。「ゴルゴ13」の元担当編集者である西村直純氏はNHKの番組でこう述べている。

〈先生は、さいとう・プロダクションの中の誰かが脚本を担当すると、どうしても自分(さいとうさん)の顔色をうかがうようになる。つまり描きやすいものとか、先生が好きなテーマにどうしても偏りがちになるんじゃないかと。その方が採用されやすいから、当然そうなる。だから、自分は関与せず、編集部の方で脚本家と脚本を仕上げるほうがいいという判断をされたと聞いています〉(NHK NEWS WEB サイカルジャーナル10月12日)

 この「英断」こそが、「不祥事予言」の驚異の的中率の秘密だと筆者は考えている。外部の協力者や脚本家は、組織内の人間関係やムードに流されることなく、「明日起きてもおかしくない物語」をつくることのみに集中できる。そうして研ぎ澄まされたシナリオが非常に高いリアリティを持つことを可能とし、それが時に精度の高い「未来予測」になっているのではないか。

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