90歳でも「異性にモヤモヤッ」 周囲が明かす瀬戸内寂聴さんの逸話…生命力の秘訣とは
「色戒を守り抜いた」
出家までの51年間は、寂聴さんにとって火宅の半生であったともいえる。いまであればワイドショー等で糾弾され、SNSが頻繁に炎上したかもしれない。
ともあれ寂聴さんは、出家することで肉欲を断ち切った。『老いも病も受け入れよう』(2016年、新潮社)に、こう書かれている。
〈十戒のほとんどは守れません。(中略)困りはてた末、私は、それなら人間が一番守り難いことを一つだけでも守ろうと決めました。それは色戒(しきかい)です。セックスをしないことです。/五十一歳から、私はそれだけは守り抜きました。出家前の私の行動がふしだらと見られていたので、人は私が出家以来、色戒を守っていると言っても信じないようです。しかし、天地神明に誓って私は守り抜きました〉
だが、エロス自体を断ったわけではなかった。『わが性と生』(1994年、新潮社)から引用する。
〈私は芸術はすべてエロスの香りのないものは興味を惹かれないし、男が女よりずっと好きですし、セックスも嫌いじゃないけれど、すべて人並、平均並で、残念ながら好色と呼ばれるほどの素質ではないと思います。もし私が天性好色で淫乱の気があれば、五十一歳で、ああはすっぱり出家は出来なかったでしょう。むしろ、好奇心が強く情熱的な割には、すべての欲望執着が淡泊なのではないかと思います〉
本当に〈人並〉かどうかは、意見が分かれるだろうが、出家と〈色戒〉を通して、世間から〈ふしだら〉とも評されたそれまでの行動は、文学の培養土へと昇華したのだろう。
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