90歳でも「異性にモヤモヤッ」 周囲が明かす瀬戸内寂聴さんの逸話…生命力の秘訣とは

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不倫を世間の常識への反乱として描いた

 文芸誌「新潮」の矢野優編集長が説明する。

「瀬戸内さんは、ご自身の人生を作品に反映させることに関して、卓越した才能をお持ちでした。昔のご記憶を異常なまでに鮮明に回想できるんです。偉大な文学者とは、パーソナルな体験がすべて文学になる人のことだと思いますが、瀬戸内さんはまさにそれでした。そして生涯を通して、恋と革命が大きな文学的モチーフになっていたことは間違いありません。恋を、単に切ないものではなく、熱烈で破壊的なものとして描き、不倫も世間の常識に対する反乱として描いていた側面があったと思います」

 では、そのテーマの起源はどこにあるのか。

「持って生まれたものだった、としか言いようがないでしょう。ただ、瀬戸内さんは幾度も、出身地の徳島について書かれて、それを読むかぎり、狭い人間関係や常識が幅を利かせる世界の外に行きたい、という気持ちが原体験としてあったと思います」

性や死を直視したからこそ出てくる知見

 作家の田中慎弥氏も言う。

「瀬戸内さんほどの人生経験がある方は、そういらっしゃらないでしょう。ただ、壮絶な体験が先にあり、それを作品に昇華させたのではない。彼女はもともと文学少女で、不倫相手はみな文学青年や作家でした。壮絶な恋愛は、すべて文学と共にあったのです」

 そして出家後も、

「人間の根源にあるものから、目をそらさない方でした。性や死を直視したからこそ出てくる知見を、わかりやすく、胸に染みるお言葉で、多くの人たちに語りかける力をお持ちでした」

 と矢野編集長。火宅の日々も、心を打つ言葉が生まれるためにあったのか。

 事実、それらの言葉は、大麻所持で逮捕された俳優の萩原健一も動かした。京都の寂庵で剃髪し、19年に亡くなるまで寂聴さんを慕い続けた。先に引用した小保方氏との対談での言葉も、叩かれていた彼女を励ます趣旨で語られたものだ。寂聴さんの友人が言う。

「瀬戸内さんは他人のよいところを見つけるのが上手で、対等な目線で、まずは相手を肯定するところから話を始める。だから絶対に相手を傷つけません」

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