90歳でも「異性にモヤモヤッ」 周囲が明かす瀬戸内寂聴さんの逸話…生命力の秘訣とは
文学の生き字引
作家の平野啓一郎氏も、
「瀬戸内さんは反権力を掲げられていましたが、 実際、弱い人や虐げられた人、誤解されている人に寄り添う方で、生きることに苦しんでいる人に愛情をもって接しておられました」
と言い、こう続ける。
「文壇デビューされた当時、男性中心だった作家の世界で虐げられ、干された経験も、影響していると思います。私にとっては、著作でしか知らない昔の作家について、実際の特徴を踏まえてユーモアを交えて話してくださる、文学の生き字引でした。たとえば、若いころ、同じマンションに谷崎潤一郎さんが住まれていて、金のない若い作家がいると聞きつけた谷崎さんが、なだ万のお弁当を差し入れてくれて感激したとか、それを河野多惠子さんが羨ましがったとか。文学史の教科書に血が通っていくような貴重な経験でした」
2012年1月、「小説すばる」に掲載された写真家、藤原新也氏との対談では、
〈死ぬと思ったら死ぬし、病気になると思ったら病気になるんですよ。失恋すると思ったら失恋するから、何でも反対のことを思うことですね。そうすれば世の中明るくなる〉
と語っていたが、そこからも、寂聴さんに会った人が元気になった理由がわかる。一方、寂聴さんの心のうちは、11年5月の「婦人公論」から引用したい。
〈人が生まれてくるのは、自分だけの幸せを追い求めるためではありません。無数の縁によって生かされていることに感謝し、一人でも多くの人を幸せにするために努力することこそ、生きる目的です〉
天台宗の「忘己利他(もうこりた)」という教えだそうである。
だが、「人を幸せにする」にも、自分が健康でなければ始まらない。その秘訣はどこにあったのか。『はい、さようなら。』(19年、光文社)には、次のような言葉が並ぶ。
〈病気になったら、楽しいことを考えてください〉
90代で胆のうがんの手術を経験し、復帰できた理由を語っているだろうか。また、長生きについては、
〈あえて秘訣というならば、それは毎日たくさん笑うことね〉
[5/8ページ]