90歳でも「異性にモヤモヤッ」 周囲が明かす瀬戸内寂聴さんの逸話…生命力の秘訣とは
他者のエロスも生命力に
自身の生命力にするのは、他者への〈迷惑〉にならないエロスである必要を、悟っていたのだろう。若いころの倫に非ざる恋を、『あの世 この世』(06年、新潮社)のなかで、こう回想していた。
〈私の場合は、いわゆる今の言葉で不倫ですが、相手に妻子がある場合がありました、何度かね。その場合、天地に誓って一度も相手の家庭を破壊しようとか、引っ張り出して一緒に住もうなんて思わないんですよ。(中略)少なくともその礼儀は守っていたから、自分はあまり悪くないように思っていたの。(中略)でも相手の家庭をやっぱり傷つけていたことが、今頃よくわかって懺悔しています〉
だが、同時に、こう考えることもできていた。
〈私は別れた男たち、生別であろうと死別であろうと、どの男に対しても悔は残っていません。つきあっている間は出来るだけのことはしたと思うからです〉(『わが性と生』)
また、他者のエロスも生命力につながったのかもしれない。前出の田中氏は、
「たまに突然、お電話をくださり、お話の内容はいろいろでしたが、“実はあの作家とこの作家がデキていた”なんていう、表に出せないものもありました」
いずれにせよ、元気でいることは、寂聴さんの願いにつながった。
「瀬戸内さんの最大の願いは、書き続けて死んでいくことでした」(矢野編集長)
それは概ね叶ったと思われ、80歳以降に書かれた小説や随筆等を含め、寂聴さん自身が精選した決定版の『瀬戸内寂聴全集 第二期 全五巻』(新潮社)が、来年1月から刊行される。
だが、ここ2年ほどの状況は、寂聴さんの精神と肉体を、ともに蝕んだかもしれず、やるせない。
「新型コロナの感染拡大で、寂庵での法話もできない状況が続きました。“人前で喋ることで、逆に聴衆から元気をもらっている”とおっしゃっていたのに、それが叶わなかったのが気の毒です」(中村氏)
ある関係者によると、夏に寂庵で会った際も、普段と変わりないほど元気だったというのだが。合掌。
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