なぜ私たちは氷川きよしから目が離せないのか 「演歌界のプリンス」から「時代のアイコン」へ

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「下世話な好奇心」から「目の保養」まで あゆにも通じるセルフプロデュース力とバランス感覚

 なぜ氷川さんから目が離せないのか。一つには失礼ながら「下世話な好奇心」という点があるだろう。ネットニュースで女性的な衣装が話題になるたび、写真を見に行くという人は少なくない。先のCMのセリフを借りるならば、「どちらかひとつ」の立場でない姿に違和感や好奇心を覚える人たち。でも何度も言うように、氷川さんは白黒はっきりつけるような言葉を発していない。アンチがいくら批判したところで、手応えがないのではないだろうか。もちろん誹謗中傷に対しては断固とした処置を取ることも表明している。が、本人が何も言っていないのにあれこれと騒ぐ方が、野暮で下品。今ではそんな空気が出来上がっているように感じられる。

 一方で「目の保養」として見ているという人も相当数いることだろう。ステージ上だけでなく、オフショットでもあでやかなオーラが伝わってくる。細部まで手入れされた美貌や、高級ブランドバッグを持ったファッションは麗しいの一言だ。趣味である料理や園芸についての発信も多く、柔らかな表情を見ると「よかったね〜」と親心のようなものが湧き上がってくる。

 露出度の高いステージ衣装、高級ブランドのファッション、核心を避けた意味深な文章。こう並べてみると、浜崎あゆみさんにも重なる。彼女もアンチ・ファン共に多い人だが、時代の先端を走り抜けて来た歌姫だ。なお、あゆはLGBTフレンドリーであることも表明していたが、男性ダンサーと絡む写真や妙なポエムも多いなど、やや自分語りがすぎるところもある。あゆ並みのセルフプロデュース力を持ちながら、あくまで芸を売り続ける強さ。氷川さんのそのバランス感覚もまた、支持されている大きな理由ではないだろうか。

令和の見た目に昭和のマインドというギャップも魅力 今年の紅白も当確か?

 よく女子アナやアイドルが、デビュー初期のキャラ設定が辛かったと語って注目を集めようとすることがある。氷川さんは過去の葛藤を必要以上に売り物にはしない。売るのはプライベートではなく芸。歌手という立場からは決してブレないのだ。その確固たる姿勢こそ、最も尊敬を集めているのではないだろうか。

 期待を押し付けられることへの戸惑い、それでも頑張り続けることしかできない辛さ、助けを求められない孤独感。そうした気分は、誰もが思い当たるだろう。思えば氷川さんは就職氷河期世代ど真ん中でもある。今でこそ辛い場所からは逃げていい、という声も多く聞かれるが、氷川さんは逃げず腐らず黙って戦い抜いてきた。中性的で華やかな見た目は令和的だが、中身はザ・昭和の職人気質。そんなギャップもまた、性別や世代を問わず愛される理由なのだろう。

 あと2カ月余りで今年も終わるが、昨年の紅白では私たちの度肝を抜いた氷川さん。今年も出場となれば、紅でも白でも桃色でもなく、七色の輝きを見せてくれるに違いない。

冨士海ネコ

2021年10月15日掲載

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