忘れられない不倫相手は年下男子 思わぬ再会の衝撃と妻の誤解にアラフォー男性は――

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 人間は動物として雌雄にはっきり分かれているわけではないと聞いたことがある。男と女の間にはグラデーションがあり、さらにそのグラデーションの軸の周りにさまざまな人がいる、と。今の時代、性自認も恋愛対象も人それぞれなのかもしれない。

 気づくのが早い人もいれば、結婚してから“本当の自分”に気づく人もいる。

“普通の人生”を送っているはずだったのに

「幼稚園のとき、すごくかわいい女の子がいて、僕、毎日ちょっかい出していたんですよ。その子のクレヨンにわざと触ったり、自分だって持っているのにハンカチ貸してって言ったり。彼女の気を引きたくてたまらなかった。親は『こんな小さいうちから女好きでどうしよう』と思っていたそうです(笑)」

 沢田恭一さん(43歳・仮名=以下同)は、柔和な顔をさらにほころばせた。笑うと目尻が下がって、いっそういい人に見える。実際、いい人なのだが、ここ数年、彼は大きな葛藤を抱えながら生きている。

 両親と4歳年上の姉がひとりの4人家族で、「ごくごく普通に育った」少年だった。姉は中学生からバスケットボールに打ち込むスポーツウーマンだったが、彼はどちらかといえばインドア派。姉弟で習っていたピアノも姉はすぐに脱落したが、彼は一生の趣味として今も弾いている。中学からはギターも習った。音楽はクラシックから演歌まで、何でも好きだという。

 母の姿を見て、すぐに編みものをできるようになったのも姉ではなく恭一さん。「親も親戚も、姉と弟が逆だろうと冗談を言っていました」

 おっとりとしてピアノを弾き、周りの女の子にマフラーを編んでプレゼントする恭一さんは女友だちが多かった。モテていたわけではないが、女性のほうが気軽に話せたと彼も認識している。

「姉は怖かったけど、クラスの女の子は優しかった(笑)」

 大学では比較文化を勉強し、イタリア語に夢中になった。在学中に1年間、イタリア留学をし、卒業後にまた2年、留学した。

「恋もしました。情熱的に。そのままイタリアで結婚したいと思ったんですが、最終的にはフラれて傷心のまま帰国しました」

 日本の大学で世話になった教授の紹介でイタリア関係の企業に就職。さらに2度ほど転職し、今もイタリア語を駆使しながら仕事をしている。

「家を出てひとり暮らしを始め、やっと生活が落ち着いたのが29歳のとき。その間も、つきあっている女性はいましたが、結婚にはあまり興味がなかった。でもその後、あるパーティで知り合った同い年の女性と1年つきあって結婚しました。彼女は外資系企業の秘書。ふたりとも仕事も生活も楽しみたいというタイプだったから気が合ったのかもしれません」

 妻の裕香さんは結婚してすぐ妊娠、夫婦が31歳のとき女の子が生まれた。共働きだったから大変だったが、幸いふたりの勤務先はそれぞれ理解のある企業だったため、時間をやりくりして協力したという。ふたりとも友だちが多く、結婚したことでさらに人間関係が広がった。子連れでホームパーティを開いたりみんなでキャンプに行ったりと、「あまりお金のかからない遊びがうまくなった」そうだ。

友だちと繰り出したゲイバーで…

 仕事と家庭生活と家族での楽しみ。娘が小さいころはそれだけで日々を過ごしていた。

「幸せなんてあまり考えたことはなかったけど、今思えばあれが“普通の幸せ”だったんだと思います」

 人生が激変したのは、40歳、今から3年前のことだ。

「久しぶりに大学時代の友だちと会う機会があったんです。男3人、女2人で飲んでいるうちに誰かが『おもしろいゲイバーがあるから行こう』と言い出して。僕は行ったことがなかったんだけど酔った勢いで繰り出しました」

 そこからの記憶が途切れ途切れだと恭一さんは言う。ただ、とても楽しかったことだけは覚えているそうだ。

「翌日が土曜日でしたから、何もかも忘れるくらいどんちゃん騒ぎして、確か始発で帰ったような気がします。裕香にはあとで怒られましたけど、楽しかった話をしたら、『恭ちゃんが楽しかったのならよかった。たまには息抜きしないとね』と言ってくれた。裕香って、そういう女性なんですよ」

 数日後、店のママから連絡があった。また遊びに来てという「営業LINE」だった。どうやら恭一さん、その店でママや常連さんたちみんなとLINE交換をしたようだと気づいた。

「そこからまた仕事が忙しくなってしばらく行けなかったんですが、連休前かなんかに同期と飲んで、そのままふらっとひとりで行ってみたんですよ。そうしたらママが『やっと来たー、ねえ、いい男でしょ』と盛り上げてくれて。気づいたら若い学生風のスカッとしたイケメンが隣に座っていたんです」

 店のスタッフなのか客なのかはわからなかった。ただ、彼はとてもいい匂いがして、恭一さんは「かわいいなあと思った」ことだけを覚えている。

「彼はケンと名乗り、いろいろな話をしました。22歳の学生と言っていましたね。大学で南米の音楽サークルに入っているとか。レゲエが好きだと言ってました。僕もピアノだけではなく音楽全般が好きだから、彼のレゲエの話はおもしろくてね、すっかり意気投合したんです。そうしたら彼が、近くにレゲエを聴ける場所があるんだけど行こうと誘ってくれた。それでふたりで行ったんです」

 雑居ビルの小さな店に入ると、ギターとベースとドラムで音楽が演奏されていた。ケンさんは常連なのだろう。あちこちに手を挙げたり微笑んだりと挨拶を交わしていた。狭い席に、ふたりは身を寄せるようにして座った。

「ああいうリズムは好きだから、なんとなく心も浮き立って。気づいたら彼が僕の手を握ってリズムをとっている。なぜか不快ではなかったんですよね。顔の骨格がきれいな子で、特にあごのラインに見とれました。小顔なんだなあとぼうっと見ていたら彼がふっとこちらを向いた。そして僕の唇に自分の唇を押し当ててきたんです。その瞬間、クラクラして何が起こったのかわからなかった」

 されるがままにディープなキスをしていた。腰のあたりがうずき、性的興奮が体の奥から沸き起こってくる。

「頭のどこかで、いや、何かの間違いだと思いながらも、体はどんどん彼へとなびいていく。そんな感じでした。うまく説明できないんだけど。脳のどこかがぱっかり割れた感じというか……」

 ケンさんが彼の手を取って立ち上がり、店の奥へと入っていく。暗くてよくわからなかったが裏手の別室に連れ込まれた。

「そこで彼が『僕、あなたが好きなんだ』と耳元でささやいてきた。心地よいリズムの音楽が流れているのが聞こえて、酒には酔っているし、なにがなんだかわからなくなっていました。彼は僕を抱きしめ、愛撫してきた。そして僕は彼と関係を持ってしまったんです」

 彼はケンさんに手を引かれて、また店へと戻った。その後はずっとイチャイチャしていたという。

「男の子とこんなことをしたのは初めてだというと、彼は驚いていました。『てっきり僕らの世界の人だと思っていた』って。結婚して子どももいると言ったら『じゃあ、本当の自分を知ることができてよかったね』と言われました。そうなのか、これが本当の自分なのかと自問したけどわからなかった。ただ、ケンは本当にかわいかったし、また会いたいとも思ったので、次の週末も会う約束をして別れました」

 帰宅して妻の顔を見ると、自分が遠い惑星から帰ってきたような安堵感があった。自分の住む世界はここでいいはずだと確信した。それなのに彼は翌週、またゲイバーに行ってしまったのである。

「彼との約束があったから……というのは言い訳ですね。やっぱり僕はケンに惚れてしまったんだと思う」

 ケンさんに促されてホテルへ行った。ますます彼にはまっていく自分を確認せざるを得なかった。ところが数ヶ月後、彼は店から忽然と姿を消した。連絡もとれない。ママに聞くと「あの子は気まぐれだから。そのうちまた来ると思うわよ」という返事だったが、常連のひとりが「この町じゃなくて別のところに出没しているらしいよ」と耳打ちしてくれた。

「ケンがいないと僕は気持ちが不安定になってしまう。だからケンがいる場所を探し歩きました。そしてある店で彼とばったり会ったんです。彼は、『僕には保護者がいるんだ』と。どうやら年配の男性が彼の面倒をみているらしい。学費も出してもらっていると言っていました。だから本気の恋はできないんだ、と。僕がケンに本気になっていることをわかっていたんでしょうね、だから自ら姿を消した。『でも僕は恭一さんのこと、好きだよ』というケンの顔はやっぱりかわいかった。その日は彼、急ぐからとさっさと帰ってしまったんです。そしてまた居場所がわからなくなった」

 恭一さんは、いわゆる「ハッテン場」を探し歩いた。ケンのことを教えてあげると言われて数万円を巻き上げられたこともある。それでも彼は諦めなかった。

 ただ、そんな彼の気持ちが家庭生活に影響しないはずはない。ある日、裕香さんが「恭ちゃん、最近、ちょっと変だよ」と言い出した。

「いや、仕事が忙しくてと言ったら、『仕事も生活も楽しむのが恭ちゃんでしょ。すごく悩んでいるみたいだから心配』と。その言葉に涙ぐんでしまいました。こんなに心配してくれる妻がいるのに、20歳近く年下の男の子に心を奪われている自分は、どうしてしまったのか、と。苦しかったです。忘れたかった、でも忘れられなかった」

 例のゲイバーのママからある日、連絡があった。「今日、ケンが来るって。恭一さんには言わないでって言われたんだけど、あなたも大変そうだから知らせたのよ」と。

「行ってみるとケンがいました。ママの言葉とは裏腹に僕を待っていたように見えた。『恭一さんに協力してほしいことがある』と彼は言いました。ケンのためなら何でもすると言うと、黙ってついてきてと言われました」

 彼は車に乗せられ、目隠しをされた。ケンさんが手を握って「危険な目にはあわないから、絶対」と言った。そして次に目隠しをはずされたのは、とある部屋だった。彼は椅子に座らされていた。目の前には大きなベッドがあり、そこにケンさんと、恭一さんより年上のサングラスをかけた男性がいた。

「つまり僕は、ふたりの関係を見せられたんです。男はケンの“保護者”でしょう。僕とケンのことを嫉妬したのか、そうやってケンが自分のものだということを示したかったのかもしれません。ケンは最初、受け身でいましたが、そのうちものすごく興奮してきて、それが僕にはつらかった」

 もしかしたら恭一さんは、ふたりの関係のスパイスに使われたのかもしれないが、もちろん彼はそんなふうには思っていない。

 その後、ケンさんへの思いはますます強くなったが、ケンさんはいろいろ理由をつけて3回に1回くらいしか応じてくれない。

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