精神科医が教えるコロナ禍の「ストレスフリー」実践法 パフォーマンスを維持するスキルとは

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 現代はストレス社会――と言われて久しいが、新型コロナウイルスが蔓延する今、我々は更なるストレスを抱え込んでいる。疫病禍において心身をいかに保つべきか。20万部超のベストセラー『精神科医が教えるストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社刊)著者、樺沢紫苑氏が指南する。

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〈自殺や過労死、社会問題と結びつけられるようにして、「ストレス」は、日本社会で長い間「絶対悪」として認知されてきた。「ストレスをなくそう」という理想論と、「日々たまっていくストレス」という現実論の間で頭を悩ませてきた人も多いのではないだろうか。精神科医の樺沢紫苑氏は、「ストレスはゼロにならないし、ゼロにしてしまうとかえって健康によくない」という。〉

 ストレスがゼロになるというのは実は健康に悪いんですね。ストレスがゼロな状態とはどんな状態かというと、究極にリラックスした状態。言い換えれば「ボーッとしている」状態です。人間が何かを考えたり、行動したりするには、適度なストレスが必要なんです。

 例えば、先日まで開催されていた東京オリンピック。過去最多のメダルを獲得した日本人選手の中には下馬評通り実力を発揮した選手もいれば、期待通りの活躍ができずに大会を去ることになった選手もいました。

 これにはさまざまな原因があると思いますが、選手たちにとってのストレス、つまりプレッシャーが一因とする考え方もあるでしょう。たしかに大きすぎるプレッシャーは、過緊張につながり、選手のパフォーマンスを低下させます。しかし、まったくプレッシャーのない状態、ストレスゼロの状態でも自分の実力を発揮することはできません。

 金メダルを獲得するような選手たちは、プレッシャーからくるストレスをうまく調整して、ベストパフォーマンスが発揮できる状態をつくり出しているのです。

 ストレスは、言い換えれば「刺激」です。脳を刺激することでドーパミンやノルアドレナリンなどの集中力を高める物質が分泌され、私たちの能力を何割もアップさせてくれるのです。

 ドーパミンを出すのに効果的なのが、楽しむこと。メダリストたちの多くは、「競技を楽しむ」といいますが、同じことをやるにしても、嫌々やるのと、ワクワク楽しみながらやるのとでは、ドーパミンの放出量がまったく違ってくることがわかっています。

 ストレスをゼロにするのではなく、ストレスを刺激ととらえて緊張とリラックスのバランスを取りながらベストパフォーマンスを引き出せるようにする。「ストレスとうまく付き合う」のが「ストレスフリー」の考え方なのです。

〈「ストレスとうまく付き合う」といわれても、これまで日本人の多くにとってストレスは「ひたすら耐えるもの」「我慢するもの」か、専門家を称する人たちのアドバイスで「無視してなかったことにするもの」だった。

 コロナ禍であらわになったように、私たち日本人は、ストレスに弱いのだろうか?〉

 日本人だけが特にストレスに弱いということはないと思います。ただストレスを感じた際の表現の仕方に違いはあります。一括りにするのは危険ですが、欧米人はストレスを感じたときにすぐに発散しようとします。「キレやすい」ともいえますが、すぐにワーッと怒ったりして、ストレスを発散しようとする。一方、日本人はストレスを感じると黙ってしまう傾向にある。抑うつ型といいますが、発散系の欧米人とは、感情表現の違いこそあれ、ストレスの感じ方に違いはありません。

 ストレスのため込みやすさでいうと、たしかに日本人は「人に相談するのが下手」とはいえますね。

 例えばアメリカにはカウンセラーやセラピー、自助グループなど「相談をするための場」が存在し、定着しています。

「誰にも話せない」ことが、さらにストレスになり、ストレスをため込む結果になることはあると思います。

「孤独」は究極のストレス

 ただ、「ストレス耐性」のように、「耐えることが前提」の考え方はやめた方がいいと思います。日々降りかかるストレスを盾で防ぐという考え方ではなく、どう受け流すか。最新の精神医学では、ストレスに対しては、「回復力」や「弾性、しなやかさ」を意味するレジリエンスが重要だとされています。世界がストレスにあふれているコロナ禍のいまこそ、これから紹介する、しなやかにストレスを受け流す「ストレスフリー」な生き方が必要なのです。

〈リモート会議、在宅勤務、飲み会も旅行も里帰りも自粛……。コロナ禍では、あらゆる場面で人とのつながりが奪われた。実はこの「孤独」こそが、究極のストレスにして、コロナ禍の最大のリスクだという。〉

 孤独は究極のストレスなんです。なぜかというと、他者とのつながりが断たれた人は、「自分を気にかけてくれる人なんて一人もいない」「誰も助けてくれない」という思考になっていき、やがて絶望します。

 極端な話だと思うかもしれませんが、絶望の先には自殺があり、孤独→絶望→自殺という連鎖は確実に存在しているのです。そういう意味では、孤独は自殺の第一歩ともいえるわけです。

 ではどうしたらいいか? 孤独を防ぐには、つながりを保つしかありません。コロナ禍ではリアルなコミュニケーションが困難ですが、私はみなさん少し極端ではないかと思います。感染対策に十分配慮し、週に1回親友と会う。これで自殺につながる孤独が防げるなら、命に関わるリスクはどちらにあるでしょう?

 大学生がリモート授業でキャンパスに行けず、部活やサークルはおろか、友達もできないという話を聞きますが、こうした孤独は非常に危険です。

 年齢にかかわらず有効なのは、困ったときに相談できる親友を持つこと。遊び友達は少なくてもいいけれど、一人か二人、困ったときに相談できる親友は必要。スマホもメールも、リモート飲み会もあるけれど、実際に会って話す効果とは大きな差があります。

 週に1度、感染対策を心掛けたうえで親友と会う。ストレスフリーな生き方に欠かせない要素の一つです。

〈在宅勤務が長くなると、普段、日中は一緒に過ごさない家族の存在が気になる。“コロナ離婚”なる言葉も生まれているが、ストレスからくる夫婦間、家族間の不協和音はどのように解消すればいいのだろう?〉

「不可侵時間」をつくることをお勧めします。会社に出社しているときは、それぞれ一人になる時間があった。それがなくなったことによって「息が詰まる」「相手の存在が邪魔に思える」というストレスが生まれるわけです。

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