泥沼不倫から抜け出したい男、しがみつく女… 双方を取材した後、彼女が呟いた言葉は

亀山早苗 新・不倫の恋で苦しむ男たち 国内 社会 2021年7月7日掲載

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 単身赴任や不規則な時間での仕事など、不倫に陥りやすい環境というものがある。言い換えれば、不倫をしても疑われにくい環境だ。それでも、バレるときはバレる。そして、バレてもすぐに「終了ブザー」が鳴るとも限らない。頭ではわかっていても感情が追いつかないのだ。【亀山早苗/フリーライター】

 自分が陥っている不倫の話を聞いてほしいと言われ、夏美さん(39歳・仮名=以下同)に会って何度か話を聞いた。彼女は12年前に結婚した会社員の夫との間に、10歳と5歳の子がいる。だが第二子が1歳になったころ、20代前半の頃に半年ほどつきあっていた同い年の元彼に偶然、再会した。同居している夫の両親との関係が悪く、夫は夏美さんの側にはついてくれない。ずっとくすぶっていたそんな不満が、元彼に会って爆発した。

「彼は私と別れたあと、地元の北海道に帰って就職し、単身赴任で東京に来ていました。彼とは若いころクラブで知り合ってつきあっていたんですが、他にも女がいるしお金にはルーズだしで、私はイライラしっぱなし。最後は『おまえ、うざいわ』と切られたんですよ。それでも私は彼が好きで、諦めるのにどれだけ時間がかかったか……」

 そんな彼と再会したら、女心としてはあのときの復讐をするか、彼との関係を再びスタートさせるか、ふたつにひとつしか選択肢はないのかもしれない。彼女は後者を選んだ。

「彼は会社員をしながら、相変わらずクラブが大好きで、あちこちに出入りしていました。中には彼がプロデュースしている店もあるとかで、そこに連れていってもらって。私も若いころを思い出してノリノリになりました。そんな私を見て『変わらないね』と彼が顔を近づけてきて……。その日は彼の家に泊まってしまいました」

 夏美さんの仕事はもともと時間的に不規則で、ときには終電に乗り損なうこともあるほどだったから、すぐに夫に疑われるようなことはなかった。

「あれから4年近くたって、今は本当にボロボロなんです、私。彼との関係も煮詰まり、家族からも無視されて。自分が悪いのはわかっているけど、この先、どうしたらいいのか……」

 彼はどう考えているのか、とにかく本人に会って話を聞いてもらえないかと夏美さんは言った。

チャラい外見とは裏腹に…

 その彼は吉田信博さんという。夏美さんと同じ39歳。待ち合わせ場所に、Tシャツとジーンズ姿で現れた。じゃらじゃらとあちこちからチェーンがぶら下がっている。180センチの長身、サングラスをとると意外と素直そうな瞳があった。

「オレ、ええかっこしいなんですよ。だから現状はすべてオレが招いたことなんだけど、今はいろいろ膠着状態ですね」

 最初から妙に率直だ。不倫相手の女性に、初対面のライターに会って話せと言われてやってくるのだから、悪い人ではないのだろう。

「北海道には妻と3人の子がいます。もともと出身があっちで、大学を中退して音楽の道を志していました。でも結局、メジャーにはなれなくてクラブ関係の仕事をしながら、バーの店員をしたりフリーターみたいな生活を送っていたんです。あ、一応、カクテルとか作れるんっすよ。そんなときですね、最初に夏美に会ったのは」

 ときおり、「~っすよ」が混じる口調に、なぜか親近感を覚える。人を警戒させない彼なりの渡世術なのだろうか。

「あのころはオレも若かったし、夏美はしつこかったし(笑)。独占欲むき出しでしたからね。半年くらいでオレがキレちゃって、別れたんだと思う。その後、夏美が結婚したと聞きました。オレなんかよりちゃんと正社員の人と一緒になったほうがいいと思っていたから、よかったなって。だけど正直言うと、オレ、夏美には未練があったんすよ」

 信博さんは東京での生活に行き詰まり、北海道に帰った。親族が経営する会社に「潜り込み」、心を入れ替えて仕事をするようになった。高校時代の同級生と28歳のころ結婚、双子の女の子の下に男の子、3人の子が生まれた。

「嫁のお父さんが亡くなったので、実家にオレたちが入って生活しています。嫁の母親はもともとオレとの結婚を反対していたこともあって、なんか居づらかった。従兄弟に愚痴っていたら、会社から東京の支社に行くかと言われて、家族の反対を押し切って単身赴任したんです。それが33か34歳くらいのときかなあ」

 東京では仕事もそこそこに、かつてのバンド仲間とともにまた音楽をやったりクラブに出入りしたりする日々。

「会社の給料が安いから大半を嫁に渡して、音楽関係で微々たる収入を得ながら暮らしてきました。家賃は会社持ち。最初は会社から遊んでばかりいると怒られていたんですが、音楽関係の人と会社の仕事が結びついたことがあって、副業を認めてくれるようになった」

 そんなとき夏美さんと再会。ドラマのように道でばったり会ったのだという。ただ、信博さんは気づいていなかった。

「昔の愛称で呼ばれて、振り向いたら夏美が立ってた。なんだか大人の女になったなあというのが第一印象でしたね。その日は時間がなかったんだけど、すぐ次の日だったか夕飯を一緒に食べて。懐かしかった。夏美がまだオレのことを好きでいてくれるのがわかりました」

 単身赴任から間がなかったし、子どもたちと別れて暮らす寂しさもあった。夏美さんを誘ってクラブへ行き、そのまま自宅へ連れ込んだ。

「昔つきあっていた彼女とまたつきあうっていいもんだなと思いました。彼女も家庭があるし、お互いに時間が合ったときに会えればいいねという話をしたんです」

 ところが彼によれば、その半年後くらいから夏美さんが暴走するようになったという。連絡もなしに来たり、ときには部屋の前で何時間も待っていたり。出入りしているクラブへ「のんちゃんいる?」と乗り込んできたこともあった。

「そういうの困るんだよね、とケンカになったこともあります。だけど彼女は『だって好きなんだもん』と泣くばかり。そんなことしていたら、ダンナにもバレるだろって言ったんですが言うことを聞かない。それどころか、だんだんオレの家に来る頻度が上がってきて、ご飯を作ったり洗濯をしたりするようになっていっちゃったんですよ。ときには食卓にごはんだけあって彼女がいないこともあった。やめてくれとも言えたけど、鍵を渡したのは自分だし、便利だなとも思って……。彼女はお金もくれるんです。それにオレは甘えきってしまった。そのうち、彼女は来ては泣いたり怒ったりするようになっていって」

 夏美さんの立場からみれば、彼は受け入れてはくれる、だけど自分が愛するほどの愛情を返してくれない。そのことで徐々に追い詰められていったのかもしれない。

「よりを戻して2年目の夏だったか、オレが休みをとって自宅へ帰ろうとしたら北海道の某空港で彼女、待っていたんですよ。朝イチの飛行機で行って待っていた、と。さすがに腹が立って、そのまま帰れと怒鳴りつけました。彼女は大泣きするばかりで、結局、空港近くのホテルをとってそこで関係をもってから帰しました。体の関係をもつと彼女、おとなしくなるんです。まあ、あっちの相性が極端にいい、というのはあるんですけどね……。別れられないのはそれが大きいかもしれない」

 夏美さんの愛情をわかっていてもすべて受け止めるわけにはいかない。彼には家族への責任も愛情もあるのだ。結婚と恋愛を分けて考えてくれない夏美さんに、彼は苛立ちを募らせていく。お互いに思いが違うことに気づきながら、修正できないままに泥の船に乗ったようにずぶずぶと沈んでいくのを感じていた。

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